なにも



 なにも、なにも、なにも。
 わたしたちの間になんていれてあげない。
 あのこの柔らかな髪の毛に、触れていいのはわたしだけ。
「あー春ってこんなに寒かったっけ?」
 弟がまだ出てるこたつの中で、もぞもぞと寝返りを打つ。
「異常気象だ」
「そうね」
 わたしは曖昧に相づちを打つ。もうみかんのおいしい季節は過ぎた。弟はテレビを見ながら、みかんでなくバナナを食べている。そうしてたまに昔を思い出すかのように、ちいさくうきーとささやくのだ。
 目線はテレビに向けたまま。



-エムブロ-