怖い夢



 夢を見た。音も光もない世界に、僕ひとりだけがいて、ずうっと走り続けている夢だ。道に終わりはないし、そもそも今走っているところが、本当に道なのかさえ分からない。それでも僕は走り続ける。誰も知らない道の終わり。それはきっと一生誰も知らないもので、僕が知るべきものでもないのだろう。
「まだ起きないの?」
 声が聞こえて、目を開こうとした。それでも今僕を包んでいる闇はそれを許してはくれなくて、だから僕は走り続ける。ふわふわ、ふわふわ、まるで空を走っているかのような浮遊感に包まれて、僕は闇の中を駆け抜ける。
 夢だと分かっているのに、なぜこんなにも怖いのだろう。
「もう7時よ」
 学校に遅刻するよ。聞き慣れた姉の声が、鼻をくすぐる甘い香りが、僕をうつつに引き戻す。
「ほら、目を開けて」
 瞬間、何か冷たいものが頬に触れた。一瞬で姉の手だと分かったけれど、僕はまだ目を開けない。今、目を開いたら、僕は泣いてしまうかもしれない。そうしたら姉はきっと心配して、悲しんで、僕以上にその夢を恐れるんだろうと思った。ただ、それが怖かった。



-エムブロ-