台風の後



「せまいよう」
「がまんしな」
 枯れた畳のにおいが充満した部屋で、ちいさな敷き布団の中にふたりきり。
「まだ右があいてるのに、寄ってくれたっていいじゃないか」
「眠れないならもうひとつ布団をしけばいいのよ」
「これぼくの布団だもん」
「でもあたしがひいたの」
 きりのない言い合いに、弟が身をふるわせる。
「寒いよ」
 伸びてきた細い足があたしの足にからみついた。
「音がきこえる?」
 声変わりのすまない弟のソプラノが耳元にひびく。
「きこえるよ。ごおごお言ってる。お父さんたち大丈夫かな」
「もう、台風の音じゃないってば」
「じゃあなんなの」
 問うたけど弟は答えない。もうしばらく待ってみたけど、その答えは静かな寝息だった。
「おやすみ」
 わたしはいつもより少しだけやさしい声で、すでに意識のないひとにささやいた。



-エムブロ-