お聞きくださいサンタマリア。と少年は言いました。やさしいサンタマリアは穏やかな笑顔を浮かべて少年を拒絶しました。もうたくさん。話なんて聞きたくもないわ。けれどサンタマリア、僕は…。なおも続けようとする少年を、サンタマリアは花に変えてしまいました。少年のくちびるの色をした、真っ赤で小さな花でした。

「なんてきれいな花だろう」
 ある時通りがかった青年が、少年の花を引き抜き手に取りました。小さなポケットにねじこまれ、花は急速にしぼんでいきました。
「マリーにあげたら喜ぶだろうな」
 それからずいぶん待ちました。やっと窮屈なポケットから出された少年は、おどろきました。目の前にサンタマリアがいたのです。彼女もおどろいたように、青年と花を交互に見やりました。
 お聞きくださいサンタマリア!少年は叫びました。数年ぶりに声を上げたせいで、少年の咽は潰れてしまいました。サンタマリアは困った顔で青年から花を受け取ります。
「きれいな花だろうマリー?」
「ええとってもきれいだわ」
 そうだろう僕はきれいな花だろう。少年は嬉しげににやりと笑いました。そして次の瞬間、ことりと頭を垂れました。
「枯れたの?」
 問いかける青年に、サンタマリアはいつかのような穏やかな笑顔を返しました。サンタマリアの白い手のなかで、少年の花は静かに息絶えていました。
「平気よ」
 青年が帰った家のなかで、赤い花は消えてなくなり、あとには空虚なかおをしたサンタマリアだけが残っていました。



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