ヴィタリ



 ヴィタリはオプチミストで、噂が本当なら自慰などしたことがなかった。ヴィタリはハーフだったので、天野ヴィタリという少し変わった名前を持っていた。さらにヴィタリはハーフだったので、異国の少年のように、どこか儚げで浮き世離れな風貌をしていた。
 俺の放課後の日課は、そんなヴィタリと屋上にならんで空を見上げながらお話をすることだ。
「ヴィタリ、したことないって本当?」
「何を」
「自慰」
「はあ?」
「カワイイ天使ちゃんは、そんなケガラワシイことしないんだって」
「あほくさ。毎日してるって言っとけ」
「じゃあ父親に虐待されて毎晩行為を強要されてるって噂は?」
「父さんは海外」
「ああ…。じゃあ体中ピアスの穴だらけで、あんなトコロにも穴があるって噂は?」
「ホント」
「まじ?見せてよ」
「ばーか。うそだよ」
 何の根拠もないアホくさい噂に囲まれて、それでもヴィタリはカラカラと笑う。
「この学校にはバカしかいないの?」
 ヴィタリは強い。なのに脆い。だから俺は、毎日ヴィタリと屋上にいる。空を見ていると落ちつくと彼が言うからだ。くだらない会話が好きだと、そうしていることを彼が望むからだ。
「うん。俺はバカしか知らない」
 俺が笑うと、ヴィタリはやっと泣きそうな顔をする。だから俺はいつも最後に一度だけ笑うことにしている。



110220



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