あてにならない



 猫が好きだからという理由で、柳はネコヤナギと呼ばれている。そういう植物があるというのをみんなが知ったのは、つい最近の国語の授業でのことだ。それ以来、柳はクラスの人気者で、最近は噂を聞いた他のクラスからも人が集まるほどだ。しかしもとより人見知りの激しい柳にとって、この状況はあまりありがたくないようだった。
「よお。人気者だな、柳」
 放課後の教室で一人机につっぷしていた柳に声をかけると、彼は泣きそうな顔を上げた。
「なんとかしてよ、服士」
 ちなみに彼をネコヤナギと呼ばないのは、幼なじみで腐れ縁の俺だけだ。
「服士のせいだよ。みんなが僕にお祈りするんだ」
 苦笑いの俺を、柳はうらめしそうに睨んだ。
「それに僕、どちらかと言うと猫より犬の方が好き」
 そうなのだ。実は異常なほどに猫が好きなのは俺の方で、柳は違った。小柄で大人しい柳とは対称的に、大柄でがさつな俺は、かわいいものが大好きという趣味がバレるのが嫌で、猫グッズの購入などを昔から柳に頼んでいた。それがきっかけで今に至る。
「しょうがないだろ。柳が猫好きそうな顔してんだから」
「何だよそれ」
 柳は再び机につっぷす。
「大体、花言葉なんてあてにならないんだよ。どんなに祈ったって、落ちる時は落ちるんだから」
「お前…受験生にそれは禁句だろ」
「服士って受験生だったの?」
 授業をさぼってばかりの俺は何も言えずに黙った。幼なじみは、ふわふわした容姿からは想像もつかないほど、俺に毒舌だ。猫好きを押し付けてしまった頃から特にひどい。
「フクシアの花言葉を考えれば、いかにあてにならないかが分かるよね。暖かい心だなんてさ」
 俺の名前は晶で、続けるとフクシアキラになる。そこから見つけた花の名前で、柳はよく俺をからかう。
「何だっけ、ネコヤナギの花言葉は」
「努力が報われる。服士には効かないね」
「勘弁して」
「服士、冗談じゃないよ」
「…うん」
「同じ高校行こうって言ったよね。ちゃんと分かってる?勉強してるの?もし試験に落ちたりしたら、服士のかわいいもの好き、全校に広めるよ」
「分かってるって」
 なんだかんだ言いながらも、柳がそばにいたいと思ってくれていることが嬉しくて、思わず頬が緩んだ。小さな頭をぽんと叩く。柳は心底嫌そうにその手を振りほどき、低い声で「触るな」と吐き捨てた。あれ、俺好かれてんだよね?



110110



joie様提出
1月/来年咲く花



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