正義の煙



 さて、僕のクラスには殺し屋がいます。そいつはひょろっと背が高く、黒い髪をした、どうしようもないバカです。僕はそいつが大嫌いです。
 殺し屋の名前は利一です。みんなからはリーと呼ばれています。リーは僕のことが好きです。だから、どうしようもないバカです。
「公美くんを不幸にするものは、おれがみんな殺してあげる」
 リーの握る銃口から立ちのぼるのは、いつも真っ白な正義の煙です。僕はその煙が黒く染まるのを見たことがないし、これからも見ることはありません。なぜならリーにとって、僕のために行うこと全てが正義だからです。
「なんで猫を殺したの」
「公美くんを傷付けたから」
「好きだったのに」
「あの猫が生きていたら、また公美くんを傷付ける。殺すのが当然だよ」
「リー、きみの常識は僕の常識を越えている」
 僕が泣いても悲しんでも、リーにとってそれは不幸ではありません。リーにとって、僕が不幸であることとは、僕がリーといないことで、僕とリーの時間を邪魔するものは、何であろうと始末する。それが、リーにとっての正義です。リーを愛していれば僕は幸せで、リーとだけ付き合っていればいいのだと、リーは言います。
 バカです。どうしようもありません。リーは。そんなことをしなければ、僕はリーのことだけが好きなのに。



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