23時55分



 今までどんな病気にかかろうが意地でも薬を飲まなかった姉はいつも健康体で、昨日の23時55分に交通事故で死んだ。わたしが20歳になる数分前の出来事だった。
『あんたが20歳になったらあたしが一番におめでとうって言ってやるよ』
 そう言っていた彼女は今、潰れて形を変えた車内で呼吸することをやめていた。助手席に座っていたわたしは、死んだ姉の隣で静かに20歳を迎えた。
 こんな死に方をして姉は泣いているだろうか?指先で頬に触れてみた彼女にはまだ温度があったが涙にぬれている様子はなかった。
 姉の体温は静かに消えてゆく。わたしはずっとそれに触れていた、彼女のさいごの温もりを、わたしだけが覚えていてやろうと思った。彼女はわたしのたったひとりの姉だった。愛していたし愛されていた。

 ふいにぽたりと水滴が落ちて、ついに姉が泣いたのかと彼女を見たが、違う、ばかみたいに顔をぐちゃぐちゃにして泣いているのは、わたしの方だった。



-エムブロ-