六月の太陽で光合成



屋上のつめたいくうきが好き。
屋上からみえるあおいそらが好き。
屋上できく佐谷のこえが好き。

「よ、何やってんの」
 片手に大きな袋を持った佐谷が屋上に入ってきた。わたしは、フェンスの前につっ立って光合成のまねをしている。わたしのとなりに座った佐谷は、薄着のわたしに「寒くないの」と訪ねた。答えないわたしのかわりに、佐谷は勝手に「すずしそうだな」と笑った。だいぶ暖かくなってきた六月の風が気持ちいい。もっとよく感じたくて、目をつむる。
「今日何の日か知ってる?」
 言いながら、佐谷が持っていた袋を開ける気配がした。
「俺の誕生日」
 目をあけて佐谷を振り向く。こちらへ突き出された佐谷の手からは、誰からもらったかも分からないくまのぬいぐるみがぶらさがっていた。知らない、きいていない、誕生日なんて。だけどわたし以外の誰かはそれを知っていて、わたしより先に佐谷を祝ったんだ。ふうん。べつにいいけど。
「…おめでと」
「ありがと」
 佐谷はこちらを見ていない。その手からぬいぐるみを奪い、無言で隣に座り込む。ぬいぐるみを見つめる横顔に、佐谷の目線を感じた。ぬいぐるみを突き返し、立てた膝に顔をうずめる。
「かわいいだろ」
 佐谷が言う。べつに、と返した声は裏返った。
「くまきらい」
「そう?ほんと?」
 佐谷がぬいぐるみを両手で持ち上げる。おまえといっしょだな、って呟いた佐谷にやけに腹が立って、横から睨み付けたけど、佐谷は光合成をしているくまを見ながら脳天気に笑っていて、なんだかどうでもよくなって、「うそ」とだけ言って立ち上がった。
 佐谷の笑う声がする。空を見上げる。青い空と、佐谷の声と、幸せに包まれているはずなのに、どうしてだかやるせない。うつむいたら涙がこぼれそうになった。がまんして、唇をかみしめて、まだ冷たい六月の空気を肺一杯に吸い込む。太陽のにおいがした。



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