祈り
揺れている。風もないのに。首を吊ったあいつが目の前で。
祈るのは嫌いだった。なんだかむなしくなるから。でも祈ってるあいつを見るのは好きだった。いつも笑っているあいつからは、むなしさなんて感じたこともなかったから。
いつも幸せそうな顔をしていた。涙なんか見たこともなかった。だから気が付けなかったんだ。困ってることも、悩んでることも、疲れてることも。想像もつかなかったし、現実を目の前にしても、おれはまだ信じきれていない。
あいつにしてみれば、おれの日々の不満なんかは些細なものだっただろう。それでも文句も言わずに、つまらない愚痴を聞いてくれた。そのことにおれは救われていた。
「なあ、おい、今日は祈らないのかよ」
毎日祈っていただろう。死にたかったのか、ずっと。おれの愚痴を聞きながら、いつも上の空で自分の死について考えてたっていうなら、あいつを許したくない。つまらない愚痴を聞くだけで、聞かせてはくれないのか。このままいなくなるのか。おれを救う誰かがいなくなって、おれは変わるんだろうか。
祈る。揺れるのを止めたあいつに向かって愚痴を言う。頷かないあいつを眺める。むなしい。むなしい。
祈る。あいつが揺れる。おれは少し嬉しい。あいつは上の空なのに。
101027
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