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滑稽である
夏の夜とは滑稽である。
道路に落ちて踏みにじられ、原型をなくした何かを見つけた。初めは蝉のように見えたけれど、顔を近付けてよくよく見れば、それは小さな人間だった。なんだ人間か、と僕はその物体に対する興味をなくす。月のないまっ黒な夜の中で、これからどこへ行こうかなあと考えながら、当てもなく歩くのを再開した。僕はもうどこへも帰らない。
歩いていると嫌でも汗が身体を伝った。気持ちの悪い感触。だから外は嫌いだ。
『ねえ』
ふと声が聞こえる。振り向いても誰もいない。つまりは心の声である。
『ねえねえ、』
「うるさい」
『ねえねえねえねえねえ』
鬱陶しいので頭を殴ったら、声は止んだ。変わりに鈍い頭痛がした。外灯を見上げればそこにたかるたくさんの虫、違う、やはりあれも人間だ。バチン、と音がして、落下する。小さな人間が落下する。僕はため息を吐く。
夏の夜とは、滑稽である。