ある冬の夕方



 ある冬の夕方、肌寒いリビングできみと並んで明太子スパゲティを食べた。きみがなかなか食べに来ないから冷めてかちかちになった明太子スパゲティを、温めもせずにフォークに絡めて口に運んだ。隣でもどかしそうにしている、不器用な手つきに愛おしさが増したのは秘密にしておこう。
 食べながら、きみが「なんだちっともかちかちじゃないね」と言うから僕も「そうだね」と笑ったら、きみは怒って怒って泣き出した。いつもごめんねぇって泣いた。だから僕も隣で泣いた。いいよぉって泣いた。

 お皿に残った明太子が可哀相と言って、きみはまた泣いた。ぼくはなぐさめるためにきみの頭を撫でたけど、明太子をかき集めるのに必死なきみはそれに気付かなかった。今なら抱きしめたって気付かないかな。けれどそれは淋しいのでやめておいた。またこんど手を握ってね。

 すでにぴかぴかのお皿を、ろくに泡立てもしないスポンジで洗いながら、僕はテレビを見ているきみを眺める。きみはさっきからみかんを何個も何個も剥いている。でも食べはしないから、テーブルの上にはみかんの皮と実がさんらんしている。それ、誰が食べるの?

 好きだよって言ったらきみは泣くから、僕はかわりに、きみが剥いたみかんをひとつ残らず食べた。きみはやっぱり両手で顔をおおって、いつもありがとぉって泣いた。僕もいいよぉって泣いた。吐き気がするほど肌寒い夕方だった。



-エムブロ-