コーヒーと牛乳



 洋ちゃんの話をするときに、弟と言うか妹と言うか少し迷って、けっきょく妹と言うことにする。いくら華奢でも男の体に、女物のワンピースは小さい。それでも彼はそれを着る。彼は女だからだ。

 彼はいつもコーヒー牛乳を飲んでいた。どこの国のものかも分からないような、薄い紙パックの中身だけが、彼を構成する全てだった。
「そればっかりじゃ駄目だよ」
「うん、本当はコーヒーの入ってないコーヒー牛乳の方が好きなんだけど」
「それって牛乳じゃないの?」
「違うよ」
 彼は笑顔でストローをくわえる。形のいい小さな唇は、女のそれに見えないこともない。そうやってストローを噛むくせ、お母さんにそっくり。
「犬を飼いたいなあ、洋ちゃんみたいな」
 なんとなく呟いたら彼は首をかしげた。
「わたしは犬じゃないよ」
 そうだね、とわたしは答えた。犬じゃないうことは分かるのに、女じゃないということは分からないのだね、とは言わなかった。わたしはこういうところが大人だから、夜はクマのぬいぐるみがないと不安で眠れないことなんて、全然たいしたことじゃないのだ。
「姉さんはわたしが嫌い?」
「別に」
「俺はあんたが大嫌いだよ」
「じゃあ、わたしも嫌い」
 お母さんが再婚なんてしなければ、赤の他人でいられたのになあ。弟か妹が欲しいとは思っていたけど、両方いっぺんになんていらないよ。



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