ハンナ



ハンナ、彼女は変わった子だった。
あの子の背にはかつてそこに何かがあったことを思わせるような傷があった。
ハンナ、って愛犬に自分の名を付けていた。
たいていいつも不機嫌で、その右肩のいれずみについては何も語らなかった。
何よりも花を愛していた。
泣きたいときは彼女をじっと見つめるとよかった。なぜだかすぐに涙があふれる。
いつもカーテンの向こうにいた。
髪を切るのが好きだった。
落ち込むのも好きだった。
ほんとうの表情を出すことはあまりなかった。
そういえば、空もよく見ていた。
たまにくるったようにシャウトした。
じぶんがこわいと泣いていた。
でも次の日には笑顔。
「寝癖が直らないの」って、たいしていつもと変わらない髪型で困り顔。
たまに突然祈る。
ブランコが好きで、よくこいでた。
でもうまくこげなくて泣いてた。
「電車に揺られるのが好き」、って用もないのに電車に乗ってた。
それにはよく僕も付き合わされた。
たしかに彼女は変わっていたが、それは彼女が狂っていたからなのかそれとも世の中がおかしかったのかは分からない。
そんなこと一生分からなくてもいいと思ってる。



091004



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