タマゴ



 誰のためのあなたなのか。
「何か考えてる?」
「ウン」
「…集中しろよ」
 覆い被さる彼の荒い息づかいが耳に痛い。気持ち悪くはないけど気持ちよくもないよなあ。そんなもんに集中したくない。また別のことを考える。
 誰のためのわたしなのか。
「あ、」
「なに」
「タマゴ買うの忘れた」
「あとでいいよ」
「駄目。店が閉まる」
「コンビニで買えば」
「高いよ」
「俺が出す」
 一緒に生活してるんだから、あなたのお金はわたしのお金で、わたしのお金はあなたのお金なんだけどなあ。分かっているのかいないのか。たぶんなにも分かってない。ワクワクすることしか頭にないんだ。幸せでいいなあ。
「おい」
「ん?」
「まだ間に合うの」
「車出してくれたら」
 彼はしばらく考え込んだ。それからすくっと立ち上がり、ぐしゃぐしゃになって転がっていたズボンを伸ばしてはいた。
「行こっか」
「どこに?」
「だから、スーパー」
 ぼうっとしているわたしの肩に上着をかけながら、彼が言った。わたしは財布の置き場所を思い出そうとしていた。



091004



-エムブロ-