青の嘘



 親友であり心の友である青柳は、オレのこと、サイギシンの塊だって。失礼しちゃうよなあ。何度も読んだマガジンのページを適当にめくりながら、青柳をちらちらと見る。青柳は口を閉じてキシリトール・ガムを噛みながら、分厚い本を読んでいた。放課後の教室にふたりきりだなんて何だかロマンチックだ。
「ところでサイギシンって」
 マガジンを閉じて机の下に落とした。ドサッ。うるさいなあ。ヤマダに借りたやつだけど、別に返さなくてもいい。
「猜疑心だよ。自分で調べろ」
 青柳の返事はそっけない。そんなとこも好きって言ったらまた嫌な顔するの。
「ねーえ、アオ」
「黙れ」
「ナニ読んでんの」
「聖書」
 吹き出した。青柳は舌打ち。口の中に布の味がして、自分がまた指を噛もうとしていたことに気付く。指を噛むくせが治りますようにって、手いっぱいに巻いた包帯は、すでにボロボロ。それに比べて青柳の手はきれいだなーなんて思いながら、よくよく見たら、くっきりと見覚えのない傷が。
「アオ、またけんかした?」
「うっせえな」
「けがしてんじゃん。ばーか」
「知ってる」
「ほうたい巻いてあげようか」
「自分のもろくに巻けないくせに」
 そうなんだあ、オレってブキヨーなの。でも、いつも外さないでいてくれるでしょう。青柳は。俺が巻いた、メチャクチャでぐしゃぐしゃな包帯を。思い出したら何だか愛しさがあふれた。
「オレ、アオのこと好きだな。ちゅーしてあげたいくらい」
「黙れ」
「二回目。次は許しませーん」
「こっちのセリフだって」
「アオはオレのこと好き?」
「嫌い」
「本当は」
「大嫌い」
「じゃあ猜疑心の意味」
「性欲」
「嘘でしょ?」
「そうやって疑うこと」
「ナルホド」
 青柳が本を閉じて席を立つ。一気に気分が晴れてった。早くこっちにきて、呆れたみたいにマガジン拾って、オレを怒って、包帯巻かせて。そんで一緒に帰ろう。親友であり心の友である青柳。唇のかたちがキレイだな。ほんとにちゅーしたら怒るかな。
「こわいくらいに秋だなあ」
 オレンヂ色の教室に、放課後のチャイムが鳴り響く。



090928



-エムブロ-