おにぎり



 ノックもせずに部屋の扉が開いた。ベッドで宿題をしていたおれはびくりとして少し飛び上がる。振り向くと、当然のごとく部屋に入り込んできた姉がベッドの横に立ち止まったところだった。
「これ」
 両手で何かを差し出してくる。見てみると、ビニールで包まれた市販のおにぎりのようだ。開けろと言っているのは分かったが、「なに」と訊いてみたら、分かるだろうというふうにおにぎりを押しつけられた。
「むいて」
「なんで?」
 これも分かっていたけど問いかけた。姉は勉強が出来るが、こういうところに弱い。自分でむくとノリが全部はがれて、おにぎりもバラバラになるのだ。いつまでも応えを待つおれに、姉は唇を尖らせた。
「下手だから」
 うつむいて、なおもおにぎりを力尽くで押しつけようとする姉に頬が緩む。このままでは袋に入ったまま粉砕しそうだったので、姉の手からおにぎりを受け取った。おれがビニールに手をかけると、姉はとなりにすわりこんだ。
「大学生にもなって、コンビニのおにぎりが上手く出せないのかよ」
「お姉ちゃんだからいいの」
「意味分かんねえ」
 ベッドに両肘を付いて、ひょうひょうとした態度で言い放った姉に笑いながら、ビニールをはがしていく。失敗してぶつぶつ言われないよう慎重にやった。その手つきをじっと眺めながら、姉がふと呟いた。
「むかしはさあ、わたしの方が上手にむいてたんだよ」
「はあ?」
 半笑いで聞き返したら、姉が身を乗り出した。
「ちっちゃい頃はあんたの方が不器用でさあ、むいてーって持ってくるから、わたしがむいてあげてたの。でもあんたがいつの間にか一人できれいにむけるようになっちゃってさあ、それ見たらなんか気が抜けて、わたしがむけなくなっちゃったの」
 ふうん、と言ってむき終わったおにぎりを渡した。姉はそれを頬張りながらもごもごしてありがとうと言って立ち上がった。姉が部屋から出て行き、扉がしまってホッとしたのもつかの間、またすぐに扉が開く。姉が部屋に入ってくる度、ノックは大切なものだと思い知らされる。姉は扉から満面の笑みをのぞかせ、ご飯粒だらけの指先をおれに向けた。
「さっきの話、信じた?」
 はいはい、って同じ顔で笑った。



090822



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