河原のボーロ



「この間さあ、」
「うん」
「突然知らない人と話したくなって」
「うん」
「河原に行ったんだよね」
「それで?」
「おっさんが寝てた」
「ふうん」
「途中コンビニに寄ったら卵黄ボーロ見つけて、懐かしかったから九袋くらい買って」
「ばかじゃん」
「おいしかったよ」
「全部食べたの?」
「鳩にもあげた」
「おっさんには?」
「あげた」
「ばぁか」
「ボーロって噛まずに溶かすよね」
「同感」
「ボーロがなくなって、つまらないから河原でしばらく魚見てたら、おっさんじゃない人がきた」
「誰?」
「高校生くらいの女の子」
「どんなだった」
「イヤホンで音楽聴いてた」
「なんていうやつ?」
「分かんない。なんか難しいカタカナのやつ」
「聞いたんだ」
「うん。わたしの隣に座ったから」
「それで?」
「イヤホンを片方くれた」
「良い曲だった?」
「まあまあ」
「それで?どうなったの?」
「一緒に魚を見た」
「楽しかった?」
「楽しかったよ」
「その子は今どこにいる?」
「わたしの目の前」
「その子のこと好きになった?」
「さあね」
「わたしは好きになったよきみを」
「ねえ、もう一度質問していい?」
「どうぞ」
「これ何ていう曲?」
「コールドプレイのヴィヴァ・ラ・ヴィダ」
「ああ」
「いい曲でしょ」
「よく分からない。でも好き」
「ねえ」
「なに?」
「今度はわたしの分もボーロ残しておいてね」
「うん」
「あ」
「あ」
「今の見た?」
「うん、見た」
「奇跡だ」
「あの、今さらですが実のところわたしもきみが大好きです」
「、ばぁか」

 川でいちばん大きい魚が跳ねた。
 その波紋は今まで見てきたのでいちばんきれいだった。彼女のとなりで呼吸がとまるかとおもった。でも呼吸を忘れたって案外へいきだったよ。



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