すきでした



 好きです。好きです。好きでした。
 あなたの血色のわるいくちびるが、たどたどしく言葉をつむぐ様が好きでした。かたちの良い五本の指が、汚いものに触れるようにわたしの手をにぎる仕草が好きでした。いつも悲しげに揺れていた、瞳と下まつげが好きでした。
 今でも何もかも好きです。あなたがこの世に残したほんの些細な軌跡まで、わたしは全身で愛します。これはわたしという動物の本能です。

 好きです。好きです。好きでした。
 この目も開けられないほど濁った世界の中で、あなたはずっと呼吸に困っていましたね。だからわたしはあなたを葬ったのです。この手で葬ったのです。

 あなた。ここではない世界の空は、さぞかしきれいな色をしているのでしょう。そちらの世界の空気はどうですか。少しは呼吸がし易いですか。ねえ。ねえあなた。わたしまだ、まだとても、あなたのことが好きです。あなた今でもわたしのこと、少しは愛おしく思ってくれますか。



-エムブロ-