彼女の世界は俺が壊した
彼女の全てを俺が奪った
ならば、俺が君の世界になる
「ルドガー」
ミラの優しい声。朝食ができたと、伝えにきた。
あぁ、もうこんな時間か。
「ほんとあなたってねぼすけね、エルがお待ちかねよ?ほら、早く起きて」
「ミラ」
「え…っ、きゃっ」
ミラが俺の髪に触れたことをいいことに、そのまま彼女の手を引いて、抱き寄せた。
「ちょっと、ルドガー!?」
「いいから、」
「…っ…」
ミラの腰に手を回し、そのまま薄桃色の唇に口付けた。
「エルが…待ってるのに」
息が掛かるほどの間近でミラが呟く。
彼女は普通に話しているのだろうが、この甘い表情を見ていると、キスをして、と請われている気がする。
「…ごめん、でも。もう少しだけ」
俺は再びその甘美な唇を味わった。ミラの拳が軽く俺の胸を叩く。
そんな抵抗が、いとおしい。離したくなくなる。
「……バカ」
「ごめん。好きだよ」
「…バカ、……私も、好き」
彼女の額に、もう一度キスを落とし、強く抱き締めた。
俺の選んだ答えは間違っているかもしれない。
だけど、これが、俺の望んだ世界。
君の世界は俺が奪った。
だから、
俺が君だけの世界になろう。
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「やぎゅ、今日ちょっと顔貸しんしゃい」
「…いいですよ」
仁王くんからの呼び出しはいつだって唐突で、私の都合などお構い無し。
だからといって無理強いするわけではない。
強引に見えて、いつだって私の顔色を伺っている。
まるで子供のようだ。
皆は彼を「詐欺師」と呼ぶ。
気紛れで、掴み所がない。故に、誰もが彼に惹き付けられる。
彼に泣かされた女性が何人もいるとか、いないとか。
「お待たせしました」
「おう、こっち」
「今日はどうしました?」
「お前、俺の主治医なん?顔会わせる度に診察されてる気分じゃ」
仁王くんの発言に、思わず顔が緩む。
あぁ、確かに。
笑みを含んでそう答える。
「───仁王くんが、私を呼び出す時はあなたが弱ってる時でしょうから」
「……」
「違いますか?」
「…わかっとーなら、さっさとせんかい」
顔色ひとつ変えずに私を見つめるその瞳が訴えている。
「キスしろ」と
彼の前で“言葉”は、なんの意味も持たない。
それは理解している。
理解してはいるんです。けど
「…仁王くん」
「……ん」
「…あの、」
「……だまりんしゃい」
私の言葉を遮って、口づけを一回。
たった二秒ほどの時間。
まるで、時が止まったかのようだった。
「お前の考えなんぞ顔見りゃわかるんよ。今さらなに躊躇っとんじゃ」
「え…」
「…お前もそうじゃろーが」
「──!」
私と仁王くんは同じ人間ではない。
顔が似ているわけでもない。
性格だって共通する部分など皆無だろう。
だけど繋がっていると、彼が、今そう“言った“のだ。
私を、求めている。
「──仁王くん」
「なんじゃい」
「今日は優しくできそうにありません」
「…そりゃ、楽しみかね」
仁王くんの合図で、もう一度口づけた。
彼が詐欺師など、誰が言ったんだろうか。
(私にはこんなに可愛いのに)
彼にこう言ったらどんな顔をするのか、想像しながら何度も何度も彼にキスをした。
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