persona3 (順平とチドリ)

飛ぼうとした天使は翼をもがれて地に落ちるのだ。いつの日か、私の烙印を天使の翼のようだと言った少女がいた。私にはあの子の笑顔のほうが天使に見えた。私はどちらかいうと薄汚れたカラスだ。
「チドリは薄着しないよなあ」
あの人はいつもヘラヘラ笑って私の心を揺さぶる。私の中に勝手に入ってきて、私の中はいつもあの人だらけだったから、あの人に会うのがこわかった。自分が無くなるようだった。
「脱ぎたくないの。烙印があるから」
冷めたように言っても彼の態度はなんら変わる様子はない。少しだけ心配そうな顔をする。
「烙印? 昔火傷でもしたんか?」
「火傷……間違いでもないかも」
自分自身どうやってその痣がついたのかはよく知らない。気付いたときにはすでにあって、私はそれを烙印と呼んでいる。人工的にペルソナを引き出した人間の証であるそれ。決して美しいものであるとは言えない。私はタカヤのようにそれを自分の宿命だとは思っていないし、あの痣が嫌いだった。あの日あの子に天使の翼の話を聞くまでは。
「あ、それ天使の絵?」
「……順平、よくわかったね」
大きな翼を持った天使は、きっと自由に空を飛ぶことができるだろう。順平のように。でも私はそれをもがれてしまった。もう空に帰ることはできないし、許されない。だから私は闇の中、地べたを這って歩くのだ。鳥を羨ましく見つめる蛇のように。
「なんかチドリみたいだな」
「……私は天使なんかじゃない。順平ってなんかヘン」
「ひどっ! でも綺麗だな」
穏やかなあの人の顔にまた心が揺さぶられる。私も本当は美しい翼で順平と空を飛びたい。でもそれは叶わないんだ。願ってはいけないんだ。この背中の痣は、翼にはなれない。禁断の果実を食べて地べたを這いずるように命じられた蛇と私は同じだ。
「……私も飛びたいよ」
「え、なに?」
呟いた私の声は順平まで届いてないだろう。この声は誰にも届いてはいけないんだ。神様にも知られてはならない。もう一人の私にさえも。
「いくよ、メーディア」
この炎が消えるまでは、止まることも許されないんだ。