persona3 (主人公と真田)

夜の神社は好きだ。かつて木枯らし吹くこのベンチに座っていたあの人に思いを馳せるのも、健気にランドセルを背負って走っていたあの子を懐かしむのも好きだ。一人が好きだということもあるが、何故か自分の周りには人が多いのだ。それはそれで、楽しくてよいことなのは知っている。つまり僕は贅沢なのだ。そんな毎日が楽しくて仕方がない。
もうすぐ満月なこともあって、今日はやけに明るかった。星が瞬いて、僕は眠気を誘われた。どこまでも暗い夜のように、いつまでもこのままでいたかった。でもそれは叶わないような気が、ずっと前からしている。明けない夜はないのだ。
「こんなとこで寝るなよ」
聞きなれた声に目を開けようとしたが、まぶたが重くて断念した。もし僕がこのまま寝たら彼は家へと連れていってくれるだろうか。まあ、トレーニング代わりにされるのがオチなのだが。
「先輩、眠ってしまう魔法をかけられてしまったので王子さまの口づけしてください」
「無駄口叩けるなら早く起きろ」
一瞬、彼の手は僕の頭を撫でた。そんなことにいちいち反応してしまう自分がなんだか悔しいのだ。僕、先輩のことが好きで仕方がないんだ。分かっているのに再確認させられるような新鮮な感触がした。
僕はゆっくりと目を開いた。今まで走ってきたのか寒そうに体を縮こまらせて僕の隣に座っていた。僕なんて放っておいて走ってきてくれれば僕だって余計な気を使わずにすむのに。そんなことを思いながら内心喜んでいる自分があるのだ。
「走ってきていいですよ。途中だったんでしょう?」
「俺がお前を置いていったら、お前は今日帰らずにここで寝るだろう」
「先輩に何が分かるんですか」
意地を張ってはみるものの、確かに先輩に置いていかれたら僕はここで寝てしまうだろう。僕には家に帰るだけの気力も体力もない。あるのは漠然とした絶望と先輩への恋心。ああ、なんてつまらないのだろう。
「先輩、僕と死んでくださいよ」
「お前の冗談はたちが悪い」
冗談じゃなかったりするんですが。そんなことも言えずに僕はまた目を閉じる。でも先輩は自分から死ぬような弱い人じゃないと知っている。むしろ、そんな人なら軽蔑しているだろう。「先輩、トレーニングがてらおんぶしてください。だっこでもいいです」
「……おんぶで頼む」
なんだかんだ言いながら僕の周りに人はいて、先輩がいる。離れることのない繋がり。忘れることのない思い出。まだ僕は生きている。あなたを思って生きていけることがどれほど僕の救いになっていることか、あなたは知らないでしょう。
よく考えたら世界のためとかみんなのためとかそんな大それたことじゃなくて、ただあなたのそばにいたかった。S.E.E.S.に入ったことだって、先輩に会えることが嬉しかったから。リーダーを引き受けたことだって、僕があなたのことを守れるから。僕にはあなたしか見えていなかった。
こんな僕を笑うかな、なんて考えながら、先輩の背中から伝わる体温が切なくて、色素の薄い少しふわふわした髪の毛に顔を埋めた。シャンプーの香りが先輩らしくないと言ったのに、気にもとめない様子で先輩は僕を背負ったまま走った。
そんなあなたが好きです。今は考えるだけで、あなたを思うだけで精一杯なのです。