「それでは皆様シフォン君の配属を歓迎して、カンパーイ!」
「カンパーイ!」
幹事の瑠の乾杯の音頭でテーブル周りでカチャンカチャンと音が鳴り響いた。
「ゴクゴク…ぷっはぁー!やっぱり仕事後のビールは最高だな!
近くのグループのケンカうるさいんだが...」
「ケイト、ビール飲めない癖にいきなりそんな飲み方するなよ。また直ぐに酔うぞ」
「うるさいよ!ワンコ!」
(あー、あー思った通りだもう出来上がっている)
上月の心配は見事に当たった。彼女は吸血鬼の血筋なのか、1杯でもお酒を飲むと直ぐに酔っ払う程弱い体質だった。
「あのー、こんな僕の為に歓迎会を開くなんてありがとうございます」
正狼の横で、この歓迎会の主役シフォンはまだ未成年なので酒は飲めないが、場の雰囲気の緊張で少し顔を赤くしてお礼を述べていた。
「あーいいんだよ!シフォン!この数年誰かがこの2課に配属無かったし、たまには気分転換に盛大に歓迎会やりたくてね!ところでシフォン君には彼女いるの?」
「残念ながら、彼女とかいないですね...ははは...」
「こんなに可愛いシフォン君にケイトねーさんの様な素敵な彼女居ねーのか!?
じゃあ今度非番の日正しいナンパのやり方教えてやるよ」
「気持ちとしては有難いのですが、非番の日市役所で手続きがありまして...」
(正直、ナンパ興味ないのですが)
「まぁまぁ、瀧田。フレア君がナンパ行けないなら代わりに僕が君に正しい始末書の書き方教えてあげますよ」
「!?
先日の事件で建物壊した件ですか!課長!!
あれは、土屋がゴーレムで現場突撃したからやむを得ず打った訳でして...」
瑠の質問に少し困ったシフォンを庇うかのようにこの2課の長である千里はシフォンのプライベートな話から上手く、瑠の失態の話題に切り替えた。和気あいあいな宴会でも唐突な仕事失敗した話ではプライベートな質問よりも精神的ダメージは大きい。
そして、まだ始末書を提出していない瑠に追い討ちをかける様に指定した日付に出すように促していた。
一方でケイトの酔いは加速していっていた。
「ああん?土屋のやつまた飲み会に参加しなかったの?
全くいっつも『俺、これから用事がありますんで』とすぐ帰るし、家でガーデニングとかしているのか!?
アイツなに考えてるのか分かんないし…スワンプマンめ!
ボブは愛妻家だからまっすぐ帰ったんだろうが...」
「落ち着け!酒の席で全員集まらないのが気に食わなかったんだろ。
ケイトお前は酔いすぎたんだ!」
そう言いながら正狼は席近くにあった冷や水を手に取り、介抱しながらケイトに飲ませた。
これで少しは大人しくなったと思った正狼だった。
が飲ませて数分後ケイトの酔い更にパワーアップしていた───────
「あー、つまりあんたが彼にケンカをふっかけて来たんでしょ」
悪化したケイトの酔いは近くの席で宴会していたグループ内のケンカ仲裁にまで介入していた。
「いーやアイツがあんなこと言うからですよ」
ケンカをしていた男はケイト話すが、もう一人の男は完全拒否をしていた。
この煮詰まらない仲裁にしびれを切らした彼女は「もうめんどくさい、このケンカは両成敗だぁ!」
ケンカしていた二人にケイトは右フックパンチをお見舞いした。
翌日の朝刊には「やり過ぎ仲裁!魔導警察官!」と言う見出しで出ていた。
記事を読みながら千里は「やっぱり女の本気人は怖いね」と呟く。
千里の机の前に立たされながら内心、まさかあの冷や水焼酎だった?と焦る正狼。その横でなんの事と思いながら昨日の記憶を覚えていない様子で髪の毛をクシャクシャと触れるケイト。
それを遠くから瑠とシフォンは眺めていた。
「あそこまでねーさんの悪酔いは初めて見たな。シフォンの歓迎会が気の毒になってしまったよ」
と瑠は心配しそうに仲良くなったシフォンに語りかけたが、シフォンはこの光景をみて薄ら笑いしていた。
「瑠さんボクはこの部署に配属されて良かったと思ってます。
面白い方々で、毎日が何かが起こって楽しいです」
そんな返答に瑠はきょとんとしていた。
案の定飲み会は暫く謹慎となった。