蒼穹なる瞳に


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The mind of me who reflects in youF
2012/12/23 15:22
 第二商業区で広大な敷地を誇る白い建物は、クエラが所属する仕事場リジェクト・ガーディアン支部である。
 受付に何か依頼は届いていないかと支部の入り口を潜ろうとした時、見慣れた青少年の顔が視界の端に入ってきた。
 
「――レニアス?」
「よぅ。テメェか」
 
 常に不機嫌そうな顔つきで不良っぽい外見をしていて勘違いされがちだが、それがいつもの彼の姿であることを、クエラは知っている。
 若き情報屋、レニアス・カーレッヂ。いつもへその出た動きやすい軽装を好んできている。今回は黒の上下に青い上着を羽織っているようだ。
 
「情報を売りに来たの?」
「いや。テメェを待ってたんだよ」
「……おれを?」
「ああ」
 
 意外だった。レニアスは世界中を旅する《放浪の探索者》という異名で有名なのだ。何かない限り、わざわざ行く予定のない国や町村に逆戻りする事などない。今普及しつつある飛行船があるとはいえ、その値段は少々高めである。彼は余計な出費は好まないため、お金を節約したいはずだ。
 不思議そうに首を傾げるクエラへ、レニアスがずかずかと近づいてきた。
 
「このリジェクトで起こってる、まだあまり知られてねぇ事件だ。ここでその情報を渡してもいいほど信頼できてる奴は、ヴァーレスとアリシュナとテメェぐらいなもんなんだよ」
 
 面と向かって言うのは、やはり、レニアスにとってこの場から消えたいくらい照れくさい事だったらしい。彼は言い切った後、小さく舌打ちをしてそっぽを向いてしまった。
 
「クソッ……なんでオレが野郎のテメェにンなコト言わなきゃなんねーんだよ」
「まさかのデレですか」
「何でテメェにデレなきゃなんねーんだよ! アホか!」
「いいから。その情報って、なに?」
「……。とりあえず、ここじゃ何だ、場所少し変えんぞ」
「分かった」
 
 レニアスから手招きをされ、ちょっとした休憩所や待ち合わせ場所となっているロビーにあるソファーへ向かい合わせになるように座った。
 話を切り出された。
 
「……単刀直入に言うと、子供を連れ去る事件が世界中で多発してんだ」
「子供、を?」
「ああ。一人で遊んでた子供、とにかく……親がいない子供を、気を何かで引き寄せて連れ去るらしい」
「そして……人身売買?」
「まあ、そんなとこだろうな」
 
 クエラは表情を曇らせた。人権の損害、人を人とも思っていない奴がやる事だ。ましてや、抵抗する力のない子供だというのに……。守る盾となる大人がいない状況で連れ去るとは、とても許される行為ではない。というか、連れ去ること事態が許されない。
 顎に手を添えて眉を潜めるクエラを、レニアスが腕を組んでじっと見つめる。
 
「オレは一応、そういった“裏”に繋がった知り合いもいるしな。その知り合いに聞いた話でさ、何件かだけだけど、最近リジェクトからも売られてるコトを知ったんだんだ。……今、隊長格の奴らは、そのコトについて会議してる」
「えっ!?」
「それほど被害が拡大し始めてるってコトだ。だからこそ、孤児院と通じてるお前に話したかった」
「あ、ああ……。なるほど」
 
 だから、レニアスはヴァーレスでもアリシュナでもなくこの施設に来る確率が一番高く、かつ孤児院にも通う自分を待っていたのだとクエラは理解した。しかも、この時間帯に来る事も見越して。
 その面を見れば、レニアスは相当頭がよく回転も速いという事が分かる。
 
「この話を聞いたら、テメェは真っ先に孤児院に行くだろ」
「……さすがにそこまで先読みされると、気味悪いね」
「あのなぁ……ッ」
 
 イラァッっと怒りマークが出てきそうな雰囲気を醸し出すレニアスに、クエラは小さく肩を竦ませた。
 ――分かってる。
 
「心配して真っ先に知らせてくれたんでしょ? もちろん、孤児院には忠告しに行くよ」
「ああ。頼んだ」
「他に、なにか特徴はないかな?」
「そう、だなぁ……相手は単独じゃねぇ。複数人なのは確かなんだ。後、路地裏に近い人気の少ない場所で子供を連れ去るのが多いらしい。まあ、面割れたくないから、当たり前なんだろうけどな」
「路地裏、ね……」
「ワリィ。オレもあんまり情報がねぇんだ。しばらくここに留まって情報収集しとくけどさ」
「うん。ありがとう」
 
 礼を言い、クエラが懐から財布を出そうとすると、レニアスは左手を前に突き出してきた。首を左右に振って「いらねぇよ」と告げられる。
 
「……なんで?」
「今回はオレの方から情報を渡したんだ。なのに、金を貰うわけにはいかねぇだろーが」
「……ありがとう」
「礼を言われるためにテメェに言ったんじゃねーよ、気色ワリィな」
「ひどいな」
「いいから、早く行けよバカ」
「うん」
 
 不器用な彼の優しさに小さく笑みをこぼし、クエラはソファーから立ち上がった。その足で、目的地へと目指す。
 ――今度は、第一居住区だ。


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