夏休みもそろそろ終わりだというある日。
オレは居間でパリパリと煎餅を食べながら午後のワイドショーを見る。面白いかどうかはよく分からない。
それよりも気になるのはさっきから眠たそうに目をこすってうとうとしている許婚だ。大方昨日買ってた本でも夜通し読んでいたんだろう。あかねは頭をぶんぶん振ってため息を吐いたかと思うと突然寝転がった。
おいおいここで昼寝するほど眠いのかよと内心呆れつつ、オレは3枚目の煎餅に手を伸ばしてあかねを見やる。



「眠いのか?昨日夜更かししてっからだぞ、あかね」

「乱馬うるさぁい…」

「ぐだぐだじゃねぇか」

「眠過ぎて頭痛するのよ…ちょっと座布団取って」



頭を押さえて手を伸ばしたあかねに座布団を渡そうとしたがふと思いつく。
もし『膝枕してやる』なんてオレが言ったらコイツはどうするだろう?また怒るか?それとも顔を真っ赤にして照れる?どちらにせよ面白いことになりそうだ。
ぽんぽん、膝を叩くとあかねは顔をしかめる。



「ほら」

「…いや、座布団取ってって言ったんだけど」

「お前寝相悪いんだから座布団枕にしたって意味ねーだろ」



適当な理由をつけてあかねの頭を膝に乗せる。
触れた髪の毛が驚くくらいサラサラで一瞬たじろぎ、なんとか平静を装った。
更に顔をしかめたあかねの頭をおそるおそる撫でてみるが、腕を払われたり殴られたり抵抗する様子は今のところない。
大した反応が返ってこないことに内心残念ではあったけれど、それだけ眠いってことなんだなと自分なりに言い訳しておいた。




「うー…ねむい…」

「んじゃ寝ろよ」

「…なんで人の頭撫でてんの」

「………」

「…話、きいてる?」




聞いてるさ、聞いてるっての。なんで頭撫でてんだとか言われても、それは無意識にやっちまってたことで、眠そうなあかねの横顔を見るのが少し嬉しかったとか、そんな、いや違っ…くねーけど今はそんなん考えてる場合じゃなくてだな!
…まあ、こんだけ眠たそうにしてれば意識がハッキリした頃には記憶が曖昧になってる、と信じて少し本音を告げるのもアリかもしれねぇ。
ドキドキしながら深呼吸を一つする。



「…か、髪、」

「?」

「女って、その、こんなに髪がサラサラなもんなんだなって、…思っただけだ」



う、うわああああ言っちまった!言葉にしてから後悔するのはいつものことだけど、テレビの音より自分のセリフの方がこの空間に響いたような気がした。
ちくしょー、笑うなら笑いやがれっっ!
からかわれることを覚悟して身構えるも、あかねの反応はない。むしろ、すうすうと寝息が聞こえてくる。



「…あかね?」

「……」

「寝た、か」



ホッとしたけど、少しだけ退屈だ。人の気も知らねーで気持ちよさそうに寝やがって。
サラサラの髪を梳くと、ぴくりとあかねの手が動く。
オレは周囲をキョロキョロと見回して誰もいないことを確認してからそっとその手に触れてみる。



「…らん、ま」

「……寝言か?」

だいすき

「…───っ…!!」

「ん〜…」



遠く聞こえるセミの声。
くそっ、寝てる時ばっか素直になりやがって…。これじゃあ手を離すのが惜しくなるじゃねぇか。
オレだって、オレだってなあ、



「…〜〜ばぁかっ」






end.