かくん、かくん、と船こぐ頭。
なんだか今日はすごく眠いわ。きっと昨日の夜遅くまで本を読んでいたせいね。
うまく働かない頭をぶんぶん振って、残り少なくなった夏休みにもの寂しさを覚えてしまう。休みなんだから、もう少し寝ていれば良かった。
居間でテレビを見ることにも疲れ、あたしは寝転がる。
机の上のお煎餅に手を伸ばした乱馬は、そんなあたしを見て呆れたように口を開いた。




「眠いのか?昨日夜更かししてっからだぞ、あかね」

「乱馬うるさぁい…」

「ぐだぐだじゃねぇか」

「眠過ぎて頭痛するのよ…ちょっと座布団取って」

「ほら」



ぽんぽん。
何故か乱馬は自分の膝を叩く。



「…いや、座布団取ってって言ったんだけど」

「お前寝相悪いんだから座布団枕にしたって意味ねーだろ」



だからといって乱馬の膝枕っていうのもおかしいと思うんだけど。
眠くてうまく働かない頭でなんとか状況を打破しようと考えるも、いつの間にか乱馬はあたしの頭を自分の膝に乗せる。鍛えているせいで堅い膝に顔をしかめると、そっと髪を梳かれ、頭を撫でられる。
これはもう夢の中なのかしら?
乱馬が優しいなんて嘘みたい。気恥ずかしいのに、睡魔のせいで正常な判断が出来なくて。



「うー…ねむい…」

「んじゃ寝ろよ」

「…なんで人の頭撫でてんの」

「………」

「…話、きいてる?」

「…か、髪、」

「?」

「女って、その、こんなに髪がサラサラなもんなんだなって、…思っただけだ」



そっか。乱馬は女の子になっても髪はおさげのままだし、普段だって髪を下ろすことはないもんね。
乱馬が素直なことに多少の疑問はあったものの、大きな手に不思議と安心してるあたしがいた。普段なら笑い飛ばしてやるのに。
微睡みながら少しずつ、確かに早まる鼓動はこれが夢だからかしら、それとも…?
重くなっていく瞼、そっと目を閉じればあっという間に眠りに落ちる。



「…あかね?」

「……」

「寝た、か」



少し速まる鼓動でさえも、今は心地良いリズム。
乱馬がどんな顔をしているのかは分からない。これが夢なら都合のいいものだけど、もし現実だったらどうしようか。
定まらない考えを巡らせて夢の世界をふわふわ飛んだ。

遠く聞こえたセミの声に振り向いて、あたしは夢の中で乱馬を呼ぶ。
手を繋いで、言うの。



『だいすき』







end?
乱馬sideも書きたい←