翼くんに誘われて調査に行った遊園地のお化け屋敷。ここに来るのは以前リカちゃんとミホちゃん達とトリプルデート(?)した時以来だ。
鳳の変な道具のおかげで色々あったけど、なんとか堕魔死神をやっつけて事件は解決。
いつの間にか鳳と翼くんは帰ってしまっていて、私と六道くんがぽつんと残された。



「なんか疲れたね」

「恐ろしい屋敷だった」



夕暮れの遊園地はとても賑やかで、私達がなんだか周りから浮いているような感じがした。調査とはいえせっかくここに来たっていうのに、骨折り損のくたびれもうけってやつかな、これ。
隣を歩く六道くんはため息を吐いてとぼとぼと歩いている。




「…あ、あのさー六道くん」

「ん?」

「その、今日…って、さ、……鳳とデートとかじゃなかったんだよね…?」

「なっ…当然だ!大体オレはあいつに重大な情報があると言われたから仕事に来た訳であって、断じてデートではない!…と、言っただろう」

「そうだったんだ…」

「お前こそ、何故十文字とここに来てたんだ?」

「あー…私は翼くんに潜入捜査しようって誘われたんだよ」

「…そうか」

「うん」




"いつもみたいに六道くんが声をかけてくれたら良かったのに。"なんて思うのは贅沢だ。
鳳と一緒だった理由を聞いて納得しても、何故かさっきからずっともやもやしてる。なんで?どうして?
六道くんと鳳が一緒にいるところを見るのは初めてじゃないのに。



「…オレに、言ってくれれば」

「え?」

「あ…いや、なんでもない」



ふいと顔を逸らした六道くんの耳が少し赤い。もしかして六道くんも私と同じこと考えてた、とか?
そんな淡い期待が、胸の奥で燻る。
鳳とデートしてるなんて疑ってしまったけど、一生懸命話してくれた六道くんが嘘をついているようには見えなかったから少し安心した。




「六道くんってさ、これから暇…だったりする?」

「ん?」

「もし良かったら少し遊んで行こうよ。せっかく遊園地に来たんだし」

「オレなんかと一緒でいいのか?」

「ここには六道くんしかいないでしょ」

「まあ…そうだが…」

「この時期浴衣着てる人は半額で園内のアトラクションに乗れるんだって。お得だよね」

「た、確かに一理あるな」

「決まりね。行こ、六道くん」

「あ、おい待て真宮桜っ!」




ぱし、と六道くんが私の手を握る。
翼くんと手を繋いだ時はそんなに意識しなかったのに、六道くんと手を繋いだらなんだかどきどきした。
でも不思議と嫌じゃない。
遊園地内は暑いけど、繋いだ手も熱いけど、離したいとは思わない。
なんだか本当のデートみたいだ。思っただけで口にすることはないけど、2人で遊ぶなんて初めてだからわくわくする。
他の人から見たら、私達はどう見えるんだろう。
逆にどんな風に見えて欲しいのか、そう考えるとちょっと恥ずかしいからやめておく。



「何に乗ろっか」

「別に…なんでも…」

「えー?」



くすくす笑うと、六道くんは視線を逸らした。
こんな些細なやり取りが楽しい。さっきも真っ暗闇の中で転んだ時、六道くんと会えてホッとしたの。
私、嬉しかったんだ。
六道くんが手の届く距離にいたこと。



「あ…」

「ん?」

「額、赤くなってるな。冷やした方がいいんじゃないか?」

「え──…」



スッ、と、六道くんは私のおでこに触れる。少しだけヒリヒリしていたけど、あまりにも突然な六道くんの行動に私の思考は一時停止した。
いや、彼は手を繋ぐことも自然にやってのけちゃうくらいだけと、でも。



「?どうし……っあ、す、すまんっっ!」



思いがけなく真っ赤になってしまった私を見て、六道くんは慌てた様子で手を離した。
離してもらって良かったはずなのに。
(名残惜しかった、なんて)




「あ、あの、六道くん」

「な、なんだ?」

「乗り物は後にして、飲み物でも飲まない?」

「そっそうだな。今日も暑いし、お化け屋敷で動き回ったし…」

「そうそう、そうだよ」

「………」

「………」

「……行くか」

「…うん、」




どちらともなく繋いだ手は離せないまま、私達は歩き出す。
夕暮れの遊園地はとても綺麗で、賑やかで…沈黙が続いても気にならないくらい。言葉にしなくても、六道くんの楽しいとか、嬉しそうな気持ちは表情から伝わった。
私といるから?…なんてね。
我ながら自惚れに苦笑していると、ふと気付く。
いつの間にか、こんなにも六道くんと近い。お化け屋敷の時より、ずっと。




「真宮桜」

「なあに?」

「……ったか」

「え、聞こえなかったからもっかい言って?」

「な…なん、なんでもない…!!」

「ちょ、六道くん?」

「聞こえなかったならいい、忘れてくれ」

「忘れてって言われても…」




本当は聞こえてたよ。
六道くんの優しさが、胸いっぱいに広がる。



『十文字に、何かされたりしなかったか』



どういう意味が込められた台詞かは分からないけど、まさか心配してくれていたとは思わなかった。
翼くんとは友達だから、心配なんてすることないのに。



「…むしろ、六道くんのせいだ」

「え?」



こんなにドキドキするのも、繋いだ手が熱いのも、まだ顔の熱が引かないことも、全部。
いつも私の心を乱すのは六道くんだなって、ぼんやり考えた。






end