私って本当、六道くんに守られてばかりだ。

擦りむいた右膝をそっと撫でる。学校の校庭脇にある水道で、傷口に付いた砂を洗い流した。染みる、けど仕方ない。近くの段差に腰掛け、ため息混じりにハンカチで傷口の周りを拭いた私は、絆創膏を患部に貼った。大きめの絆創膏持ってて良かったな。



「大丈夫か、真宮桜」

「六道くん」

「保健室…行くか?」

「平気だよ。自分で手当て出来たから」

「何でも出来るのはいいことだと思うが…」

「?」



六道くんは無言で私に背中を向けにしゃがんだ。
行動の意味が分からなくて、そのまま大きな背中を眺めていると、保健室に連れて行くから早く乗れと急かされた。…もしかしておんぶしてくれるってことかな。
断ろうとおそるおそる手を伸ばすと、こちらを向いた六道くんと目が合う。



「………」

「………」

「……なん、だ」

「…えっと…私、スカートだから遠慮しとく、よ」

「………」

「………」

「じゃあ抱えて…」

「おんぶでいいです」



きっぱり言った私に、六道くんはちょっと驚いたような顔をして、また背中を向ける。
膝を擦りむいた時に、足首も挫いていたみたいで歩くのが大変だってこと、六道くんにはお見通しなのかな?私、何も言ってないのに…。
それに抱えるってことも少し考えて言ってくれたんだと思うけど、流石におんぶより抱えてもらう方が数倍恥ずかしい。
まあ、カバンを後ろ手に持ってもらえば大丈夫だよね、きっと。
ここは素直に厚意を受け取っておこう。



「あ、そうだ真宮桜」

「ん?」

「これを羽織っておけばいい」

「黄泉の羽織?」

「霊感のない連中には見えないだろう」

「…ありがと」



なんだか、今日はいつにも増して六道くんが気を使ってくれてるような気がする。
大きな羽織を着ると、しゃがんだままの六道くんが手招きして早くしろと促している。私は少しだけ周囲を見て、一応人がいないことを確認してから六道くんの肩に腕を回した。



「…よっ、と」

「ご、ごめん、重いよね」

「平気だ。前にも真宮桜を抱えたことがあるしな」

「そういえばあったね、そんなことも」

「……少しは頼れ」

「え?」



歩きながら話す六道くんの顔は見えないけど、耳が赤くなっていて、なんだか私までどきどきしてきた。
六道くんが言った事は、私が考えていた事と同じ。
お荷物になってないかな、力になりたいんだけどな、支えになりたいな、頼って欲しいな、そう思っているのは今も昔も変わらない。…でも、本当に同じ?私だけじゃない?



「怪我させて、すまん」

「いや、私の不注意だよ」

「巻き込んだのはオレだ」

「ついて行くって言ったのは私」



決着の着かない言い合いは堂々巡りを繰り返すだけ。
そんなやりとりがちょっと楽しくて、心なしか六道くんの声色も明るい。
こうして一緒にいることが嬉しいなって、思い始めたのはいつからだっただろう。知らない世界の話や霊の話、死神グッズの話、興味をそそられる話題は沢山あって、好奇心から一緒にいるようになって…色んな六道くんを知って。
営業スマイルも、怒った顔も、悔しがる顔も、困った顔も、真剣な顔も、嬉しい時の不器用な笑顔も、私が今まで出会ったことのないタイプの人。
うまく言い表せないけど、六道くんに出逢えたことはとても良いことだったんだなって思うんだ。



「ったく、強情だな」

「六道くんこそ」

「…?笑ってるのか?」

「ふふ、笑ってないよ」

「笑ってるだろう…」



だって、可笑しい。
また六道くんの新しい一面が見れて、嬉しいんだもの。
どうしてこんなに気になるんだろう?
どうしてこんなに、幸せな気持ちになるんだろう?
六道くんの右耳に頭を寄せて、そっと目を閉じる。自分の心音か、六道くんの心音かわからないけど、とくん、とくん、聴こえる一定のリズムがとても安心した。



「六道くんて、背中大きいよね」

「そっ!?…そ、そうか…?(顔が近っ…む、胸っ……、雑念を払わねば…!)」

「?どうかした?」

「い、いや、なんでもない」

「なんか眠くなってきた…」

「(生殺しだ…っ)」






end.