スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

ドラマチックガーデン



泉と阿部+田島







@保育園




「遅くなりましたー!」

仕事終わりにダッシュでここへ来るのが最近の俺の日常だ。毎度時間ギリギリに、ネクタイを緩めながら保育園に駆け込む。

「あぁ、お疲れ様です。」

「いつもすいません、本当。」

息をきらしながら、先生に挨拶をする。彼は最近入って来たらしい、悠一郎のクラス担当の先生だ。最初に見た時、男の先生なんて珍しいなと思ったからよく覚えている。

「別に平気っすよ。」

先生はニコッと笑って、奥から悠一郎を連れて来てくれた。

「コースケ!おせーし!」

「悪い悪い。」

「ま、あべせんせーといっぱいあそべるからいいけど!」

悠一郎の頭をぽんぽんと撫でる。こうして迎えが遅れても機嫌が悪くなることが減ったところを見ると、心底先生に懐いてるようなので安心した。

「コースケのろまだからしたかないしなー!」

人が心配してやってんのに、当の本人はそんなこと言ってへらへら笑ってやがる。っていうか過去1番バッターを務めていた俺様に向かってのろまとはなんだ。聞き捨てならん。殴ってやろうかと思ったけど、阿部先生が変なこと言うから思わず動きが止まった。

「こらお前親にそんな言い方無いだろ。」

瞬間、悠一郎が大笑いしだす。ありえねーとか指差してくるあたり、本当に失礼だなコイツ。

「…コイツ俺の子じゃないっすよ?」

「え!?」

「兄夫婦の子で、今忙しいから送り迎えだけ俺がしてるんです。」

「…あ、そうなんですか。」

阿部先生は失礼しました、と頭を下げた。まぁ、勘違いするのも仕方ないと思う。
それにしても。

「あべせんせー、なんかうれしそう!」

「はぁ!?そんなことないだろ!」

俺も思ったことを、悠一郎がいち早く指摘した。口では失礼しましたとか言っといてあんまり嬉しそうに笑うから、正直一瞬可愛いとか思ってしまったじゃねーか。

「あー!いつもおまえのとうちゃんかっこいいなとかいってたの、コースケのことだったの!?おれほんとのとうちゃんのことかとおもってたのにー!」

焦っているのか、真っ赤になった阿部先生は慌てて悠一郎の口を塞いだ。

「ち、違いますから!まぁあの子供の言うことですしね…!」

「はぁ。」

「おれこどもじゃねーし!きょうからコースケはライバルだ!あべせんせーとけっこんすんのはおれだからな!」

叫びながら先生に抱き着いている悠一郎と目線を合わせるためにその場にしゃがみ込む。

「そういうことなら受けてたつぜ。」

「そうこなくちゃな!」

悠一郎がにこっと笑った。いい年こいてませてやがる。やんわり微笑みながら、頭をくしゃりと撫でてやった。

「…受けて、たつんですか?」

阿部先生が驚いたような声を出したのが聞こえたから、そのまま視線を先生に向ける。

「ご迷惑でなければ、ですが。」

なんだか色々ショートしたようで、固まってしまった先生。面白くて暫く見つめていたら、仕事中である事を思い出したのか、あたふたと変な動きで中に戻って行った。本当、可愛いんだから。





ドラマチックガーデン





あと何回迎えに来たら、素直になってくれるかな?








君と僕が全部





三橋と阿部







「阿部くん、へいき?」

「あぁ、多分…」

練習中、初めて熱中症、と思しき症状になった。三橋にいつも煩く注意しているくせに、情けないったらありゃしない。

「先生今、氷とか、いろいろ、あの…!」

「あー分かった分かった。ワリーな。」

再三断ったのだがどうしてもついてくると聞かずに、三橋は保健室まで肩を貸してくれた。いくら体調が悪いとは言え大事な投手の肩を借りるなんてどうかしてると自分でも思う。

「あー、ありがとな。後は大丈夫だからお前は練習戻れ。」

「うん、でもオレ、阿部くん心配、だ。」

一応昼休憩中ではあるのだが、三橋はなかなかその場を動こうとしない。
心配してくれている事が嬉しく、同時に少し切なかった。きっと三橋にとって俺はただの捕手。俺のリードが無いと投げられないから、俺がいないとエースでいられないから、だから。

自分で想像して、虚しくなって。その内頭が回らなくなって、考えることをやめた。
一緒に野球が出来れば充分だと、何回考えたことだろう。これ以上はバチが当たる。

「本当に、へいき?俺、阿部くん具合悪いと、心配だ。」

言いながら、三橋が俺の額にそっと手を添えた。瞬間、余計に体温が跳ね上がる。
 
「や、めろよ。」

「あ!ごめ、おれ、その、つい…!」

急な行動に驚いて手を払うと、三橋が怯えた様に目を伏せた。あぁ、また怖がらせてしまったかな。

「こ、こわかった。」

あぁ、やっぱり。自分で自分が嫌になる。泣いてたまるか、とこめかみに力を込めると、頭痛がさらに強まった。

「阿部くん、倒れた時、すごいこわくて。俺、その、阿部くんすごく、大事なんだ。」

気付けば泣いているのは三橋の方で。
いつもは合わない視線が、真っ直ぐに交わる。

「俺、そばにいたい、ずっと。」

「ずっと、か。俺が野球、やめても?」

ばかみたいな質問をした自覚はある。こんなこと聞いても仕方ない事は分かってる。

「あたりまえ、だ!ずっと、一緒にいてほしい。野球やめても、大人になっても、あの、お、おじいちゃんになっても!」

だけど、食い気味に予想とは違う答えが返ってきて、俺はゆっくりとベッドから起き上がった。

「それ、本気で言ってんの…?」

半信半疑の問いに、三橋がこくん、と強く頷いた。マウンドで、サインの返事をくれる時のように、はっきりと。

「阿部くん。好き、だ。」

三橋がゆっくりと、壊物に触れるように、俺の頬に手を添える。頭がふわふわして、夢を見ているのかと思う。今度は、振り払う事はしなかった。

「…俺もお前が好きだよ。」

三橋の手に自分のそれを重ねれば、出会った時と逆だ、と三橋が照れながら笑った。
そいや先に告白したのは俺だったなと、つられて笑った。

ー投手としてじゃなくても、俺はお前が好きだよ。

あの時はこんな気持ちになるなんて、微塵も思ってなかったけど。

「先生、遅い、ね。大丈夫?」

「うん、お前の手冷たくて気持ちいーから、このままにしてて。」

三橋の手を借りたまま再びゆっくりベッドに横になる。三橋は周りをキョロキョロ見回してから、俺の唇にそっと自分のそれを重ねて、優しく、それはそれは嬉しそうに笑った。




君と僕が全部



慌てて飛び出した保健医は校内中を奔走しているのかなかなか戻ってこない。

もう暫く2人きりにさせてほしいなんて、熱に浮かれながらそんな事を思った。






恋は戦争



9組と阿部





「あ、教科書忘れた。」

仕方ない、借りてくるか。良い口実が出来たと弾む気持ちを抑えながら立ち上がると、自分の席で昼寝をしていたはずの田島が何故か目の前に立っていた。

「誰に?」

「誰でもいーだろそんなん。」

「良くない!絶対7組だろ!?」

っていうかなんであんな呟きが聞こえんだよ。耳まで神ががってんのかコイツ。
そんなことを考えながらあからさまに嫌な顔をする俺の前で、田島は見透かしたみたいににやりと笑った。

「俺も忘れたから行く。」

「はぁ?お前起き勉してんだから関係無いじゃん。」

「こないだ水谷に貸したら返って来なくなったんだよ!」

そういやそんなこと言ってたな。クソレはどこまでもクソレだ。
しかしこんなことで引く訳には行かない俺はなおも田島に食い下がる。

「俺が先に思い出したんだからお前は花井にでも借りろよ。」

「いやだね!そんなこと言ったら先に阿部を好きになったのは俺だぞ!」

おい、その単語は危ないだろ。
田島もそれを察したのか、慌てて口を塞ぎながら横を見た。
良かった、三橋は寝てる。
これで三橋まで加わったら面倒くさい。田島は俺の無言の訴えに気付いたらしく、今の内だととりあえず2人して静かに廊下に出た。

「いいか、ゲンミツにジャンケンだ!」

「分かったよ。代わりにオメーも抜け駆け無しだぞ。」

「おう!正々堂々勝負だ!」

三橋を故意にハブってる時点で完全に正々堂々じゃないことに気付いてるんですかねコイツは。
多分意味分かってねーんだなと残念な気持ちになりながらも俺は拳を握った。







「って何でついて来んだよ!」

「ついてってねーよ自過剰。俺の前をたまたまお前が歩いてるだけだ。むしろ邪魔だ。お前の存在が邪魔だ。」

ジャンケンに負けた俺は、物凄く機嫌が悪かった。けど。

「泉ほんと口も性格も悪いな!今まで直そうとか考えなかったのか?」

いや、笑顔でそれ言うお前もどうなんだよ。

「阿部!教科書貸してー!」

不本意だけど、とりあえず阿部の顔が見たくて7組まで来てみた。まぁついでに花井あたりに教科書借りればいーし。

「お前も忘れたのかよ?」

「…お前も?」

「おう。三橋に貸しちゃったから俺はもう持ってねーよ。」

それを聞いた途端、田島と俺は顔を見合わせた。道理で阿部と言う単語が出てきてもあの三橋が起きてこなかった訳だ。
全部分かってて俺たちを鼻で笑ってたんだなあいつ。

「「三橋、許すまじ…!」」

珍しく意気投合しつつ2人して鼻息荒く教室に戻ってみたら、当の本人は阿部の教科書を抱きしめて幸せそうな顔で眠っていた。三橋、許すまじ。

とりあえずイライラを抑えたくて浜田を一発殴ってみたが、残念ながらあまり効果は無いようだ。






いつでも一緒




三橋と阿部



俺、三橋廉じゃありません。阿部隆也の携帯だ、よ!

俺たちはいつも一緒にいます。阿部くん、泣いてる顔もとっても可愛いんだ。


あ、電話がかかってきた!阿部くんに知らせなくちゃ!

でも誰だろうこの人。聞いたことない名前だな。もしかして阿部くんを狙ってるのかな。
そんなの嫌だ。絶対嫌だ。

「三橋、電話かかってこなかった?」

「ううん!来てない、よ!」

「っかしーな。今日かけるっつってのに。」

阿部くんの安全を守るのも俺の仕事だから、ちゃんと相手は選ぶんだ。

「今日は?」

「来てないよ!」

「今日は?」

「来てないよ!」

俺友達いないのかなぁってうなだれてる阿部くんには少し申し訳ないけど、でもいつも俺が傍にいるから大丈夫なんだよ!









***
よく覚えてもいない携帯CMパロ^^

I hope your future





泉と水谷







綺麗なもの、汚いもの。

この世にどちらかしか存在しないとしたら、俺は汚いもの。とてもとても、汚いもの。

「…い、ずみ?」

澄み切った綺麗な目に見つめられる度に、自分の存在がひどく歪んだものであると思わされた。
だから、どうせやらなければならないなら、全部目茶苦茶にしてやろうと思った。

「もう終わり。サヨナラだ。」

「何で、急にそんなこと言うの?」

「騙されたのに気付かないなんて馬鹿じゃねーの。」

近付いたのは、金のためだった。俺はずっとそうやって生きて来た。今回もそうだった。

「サヨナラ…なの?全部全部嘘だったの?」

「そうだ。全部嘘だ。」

「じゃあ、今の言葉も、嘘なんでしょ?」

そう言って水谷は、出会った時と同じ笑顔をして俺の前に立っていた。
何を言っているのかと思う。こんな俺に縋って、どんなメリットがあるって言うんだ。

「お前、俺なんかとこれからも一緒にいたいと思うのか?思えるのか?」

いつもは弱気なくせに、水谷の意志は揺るがない。一緒にいた時もそうだった。ここぞと言う時は自分を貫き通した。そんな一本筋の通った生き方が、俺には眩しかった。

「愛、してたよ。だから、本当にサヨナラだ。」

「…泉、っ嘘、ばっかり。また明日も…会いに来てくれるんでしょ?」

その綺麗な涙を拭うには、俺の手は少し汚れすぎてしまったから。

「…当たり前だろ。」

小さくそう呟いてから、必死に俺の名前を呼ぶ声に気付かないふりをして静かに闇夜に消えた。


綺麗なもの、汚いもの。
もう諦めていた。当たり前だと思っていた。

君に出会って初めて、いつか変われたならいいと思った。

君は世界で唯一、俺を揺るがす存在。

どうか、幸せになって下さい。
そして最期に少しでも俺を思い出して下さい。
そうしたら俺は、産まれて来た意味を見いだせるような気がします。







I hope your future

貴方に、素敵な未来が訪れんことを。






前の記事へ 次の記事へ