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読書人大賞二次応募(部内への連絡)

新聞原稿(部員への連絡)

革命の夢

こんにちは。13です。
当文芸部では、部内から作品を募り、その中から部員たちの投票で選んだ作品を関学新聞に掲載させていただいております。そこで、掲載終了した作品及び掲載候補を公開することにしました。
今回の作品は、2011年12月の関学新聞に掲載候補となった短編作品です



 『革命の夢』  鈴木小川



 グテバラは革命の志を抱いていた。国王一家を倒して、庶民を第一に考えた、平和で地上の楽園と評される国を作り上げようと、彼は考えていた。

 国王一家や取り巻き達が豪華絢爛な生活に興じる間、庶民は重税であえいでいた。いくら働いても逃れることが出来ない貧困と飢餓によって、庶民の怒りは頂点に達していた。

 彼は秘密警察に見つからぬように、真夜中に人目を忍んで下水道の中で集会を開き、同志と計画を練っていた。武器の調達や国王軍に勝つ戦術、国連への援軍要請など、革命を確実に成功させるための討論を交わした。

 夜が明ければ、彼は大学生に戻る。国家に従順なイヌを目指しているかのように、成績優秀で部活に精を出す大学生を演じていた。

 もちろん、身なりにも気を付けており、いつも黒の背広を着て大人達には体制派のように思わせた。

 

そんなある日、街角で薄汚い服を着たしわくちゃの老婆に呼び止められた。

「ちょっと、お兄さん」

「何だよ、婆さん? 俺は急いでいるんだ」

「ほんの数分ぐらいで済むから、我慢しておくれよ。あんたの未来を占ってあげるから」

 老婆に袖を強く掴まれた彼は、占いを承諾しなければいつまでもしつこく付きまとうと思い、しぶしぶ首を縦に振った。老婆はにんまりすると、早速、彼の顔を、穴が開く程に注意深く観察した。

「これは面白いね。あんたの革命が失敗すると、顔に出ているよ」

「か、革命?」

 彼は秘密警察の目を気にして、あくまで素知らぬ振りをした。

「大丈夫だよ。私も反体制派だからさ。ただ、あんたの顔から判断すると、革命は失敗してあんたは自殺するのか。いつになりゃ、この国は良くなるのかねぇ」

 老婆は肩をすくめて、人混みに中に紛れていった。

「ちょっ、ちょっと待ってくれ!」

 彼が老婆を求めても、すでにその姿は無かった。老婆の不気味な予言は、彼の心の上に圧し掛かり、大きくて黒い石となった。

 

 その後、彼は革命に失敗し、自殺を図ろうとしていた。

 老婆の予言を無視した彼は革命軍を率いて、国王軍に破竹の勢いで勝利していった。国連の援護もあって、僅か三ヶ月で方が付いた。

 王政が消滅し、民主政治がグテバラの手によって花開いた。国民投票で、彼は文句なしに大統領に選ばれた。

 前国王が隠していた大金のお陰で、開発工事や民衆へのばら撒きを遅滞なく行えた。これにより、庶民第一で楽園の国家が実現しそうだった。

 しかし、彼もまた、独占欲に支配されてしまった。

 年が経るにつれて、国家の重要な役職を親戚や取り巻きに与え、自分に都合が悪い人間を排除していった。贅沢の限りを尽くし、自分にとっての楽園を築き上げた。

 国民の期待を裏切った彼に待っていたのは、反体制派の革命であった。仲が良かった欧米諸国は敵となり、彼の楽園を火の海と化す戦闘機となった。

「婆さん。あんたの言う通り、俺は革命に失敗したよ」

 グテバラはこめかみに銃口を当て、引き金を引き自殺した。

 それは、革命を決行してから、丁度六十年目での出来事だった。

何かと戦い続ける男

こんにちは。13です。
当文芸部では、部内から作品を募り、その中から部員たちの投票で選んだ作品を関学新聞に掲載させていただいております。そこで、掲載終了した作品及び掲載候補を公開することにしました。
今回の作品は、2011年12月の関学新聞に掲載候補となった短編作品です。


『何かと戦い続ける男』  碧花音


 ガラガラと教室の戸を開ける。俺が入ってくると同時にいつも声を掛けてくる奴がいる。今朝もいつものようにあいつが声を掛けてきた。

「はっはっはー、ついに我は勝ったのだ!」

おはようも言わずに開口一番そんなことをのたまうあいつ。

「おはよう。で、今度は何に勝ったんだ?」

あいつは何かと戦うのが好きだ。しかもどうでもいい相手と。前に話してくれたのは豚まんの下についてるアレを生地を一緒に剥がさないで剥がすという偉業を達した話だった。あいつはそのことを豚まんのアレに勝ったと認識しているらしい。面白い奴だ。そんなあいつが今度は何に勝ったかが興味津々だった。

「よかろう教えてやろう」上から目線であいつが言う。特に腹は立たない。いつも通りだからだ。

「我はアルべドに勝ったのだ!」アルべド? 聞きなれない名前だ。そんな俺をお構いなしにあいつがその時の様子を克明に語り出した。

「思えばアルべドとの戦いは我の今までの戦いの中で一番長かったかもしれぬ」どうやら長期戦だったらしい。

「我は今までに何度も負けたことがあったがついに勝ったのだ」察するにアルべドは相当の手だれらしい。

「まず我は戦いの前に石鹸で良く手を洗った。これは相手への礼儀だ。忘れてはならない儀礼だ」手を洗うということはどうやら食べ物の線が浮上してきた。

「まず我はやつに羞恥を味あわせるために橙色のドレスを剥ぎ取った」これを明らかに人間にしていたら犯罪以外の何物でもない。そうでないことを祈りながら続きを聞く。

「橙色のドレスを剥ぎ取ってもやつは顔色を変えなかった。それどころかやつは我を白眼視した!」もう少し彼の妄言にお付き合い下さい。

「我は憤慨した。我はやつの穴に太く屹立したアレを有無を言わさずねじ込んだ」本気で彼が犯罪紛いのことをしていないかが気になってきてしまった。まさかアルべドってどっかの外国人女性とかじゃないだろうな。やつの言葉を真に受けて心配している俺なんか気にも留めず、かなり興奮した様子で続ける。

「我はそこから先の作業は気をつけた。何故なら我が祖母はやつの下っ端に目を攻撃されたことがあったからだ」

その時のことを思い出して後悔するかのように繰り言を言う。

「そして我は長時間の末にアルべドを全て排除しその中の果実を貪った。やつは何度も我の心を折るかのように何度も手に纏わりついてきた」段々と話が見えてきた。

「そして我はそのような攻撃に負けず勝ったのだ!」

「お疲れ様、大変だったな」とりあえず労いの言葉を掛ける。

「なぁ、もしかしてアルべドってみかんの白い筋のことか?」あいつは虚をつかれたかのように目を丸くした。どうやら図星だったようだ。

「いかにも」驚いていたことを悟られないように強がってあいつがそう一言投げる。そんなあいつに俺はとどめの一言を平然と言った。

「その、アルべドって言ったけあれってさ、みかんの果実の四倍の食物繊維含んでて、ビタミンPってやつが豊富なんだってさ。だから一緒に食べたほうがいいんだよ」

「……」あいつはぐうの音も出ない様だった。

逃れ者

こんにちは。13です。
当文芸部では、部内から作品を募り、その中から部員たちの投票で選んだ作品を関学新聞に掲載させていただいております。そこで、掲載終了した作品及び掲載候補を公開することにしました。
今回の作品は、2011年12月の関学新聞に掲載候補となった短編作品です。

『逃れ者』  曾根崎十三


 電車に乗る時、彼が座席に座ることはない。どれほど車内が空いていようと、彼自身が疲れていようと、決して座ろうとはしない。それは己を鍛えるためでも、座席に対する過剰な潔癖のためでもない。彼の臆病心がそうさせるのだ。

まだ彼が電車内の座席に座っていた頃、彼の目の前に疲れた様子の老婦人が立ったことがあった。車内は混んでいた。婦人の様子からして、彼が座席を譲るべきであったことは誰の目にも明らかであった。

しかし彼にはどのような表情、声色、振舞いをして席を譲るべきなのか皆目見当がつかなかった。彼は自分の座席を譲るという行為をしたことがなかった。彼自身は健康そのものであり、席を譲ることに対して何の不服もなかった。むしろ、譲ろうという意思自体はあった。だが、そのためにとるべき行動というものが分からなかったのだ。

そうしてただただ途方に暮れているうちに、彼の隣に座っていた青年がすっと立ち上がり、笑顔で婦人に声をかけ、席を譲った。

彼はその様を阿呆のように口を半開きにして眺めていた。と、彼の斜め前に立った青年が、ちらりと此方に目をやった。その目はどこか、彼を責めているような冷ややかさを持っていた。その時、彼は自分が極悪人にでもなったかのような羞恥を覚えた。

この眼差しの解釈は、席を譲れなかったという彼の罪悪感が生み出した曲解なのかもしれない。しかし、それだけのことでも、彼にとっては電車内で座席に座ることを止めるには十分の理由となった。

それ以来、彼は決して電車内で座席に座らなくなった。

ところが、話はこれで終わらない。日々の不摂生が祟ったのか、ある日彼はとうとう体調を崩してしまった。覚束ぬ足元、朦朧とする頭。彼はもう限界だった。とうとう床に座り込んでしまった。しかしそれでも頑なに座席に座ろうとはしなかった。

と、彼の近くの座席に座っていた紳士が、立ち上がって彼の肩を叩いた。

「大丈夫ですか。どうぞ、お座りになって下さい」

 彼が辺りを見回すと、座席はまばらに空いていた。紳士の隣の席も空いていた。どうやら紳士は彼を介抱してくれるらしい。

 彼は戦慄した。老婦人に座席を譲らなかった時以上の羞恥を覚えた。

 病人を労わる紳士の優しい眼差しの向こうに、彼への嘲りを見た。あの時の青年と変わらぬ冷ややかさ。紳士だけではない。座席に着いた乗客たちもまた、彼を嘲っていた。皆、彼の一切合切の臆病心を見透かしている気がした。

 がたん、と大きく揺れて電車が停車した。まだ彼の降りる駅ではない。しかし、駅に着いた途端、彼は弾かれたように電車から飛び出した。

ようやく自由を手に入れた! という開放感に包まれたまま、彼は意識を失った。どれほど幸福な気持ちでも、体は限界だった。

目を覚ました時、彼がさらなる羞恥に悩まされたのは言うまでもない。それ以来、彼は電車に乗ることを止めた。

彼が家から出なくなる日も近いだろう。

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