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待つ間に

こんばんは。13です。
当文芸部では、部内から作品を募り、その中から部員たちの投票で選んだ作品を関学新聞に掲載させていただいております。
そこで、掲載終了した作品及び掲載候補を公開することにしました。
今回の作品は、2010年11月の関学新聞に掲載された短編作品です。


「待つ間に」      作・曾根崎十三

「君が好きだよ」

 傘の中で呟いてみた。

白い息と一緒に吐き出された言葉は傘の中を飛び出し、冷たい雨の中に溶け込んだ。

 この言葉を使うのは何度目だろうか。少し思い返しただけでも、両手の指では数え切れない。たかだか二十年程度のこの短い人生の中で私は一体何度この言葉を使ったんだろうか。

「好きだ」

 誰も居ない闇に向かって、もう一度吐き出してみた。

 雨の筋の向こう側に見える時計は、彼が来るまであと三十分という時刻を示していた。

「好きなんだよ」

 どれほど心を込めてみても、薄っぺらい。使い古された嘘臭い言葉。誰かに用いた言葉と同じ。そんなものでしか私は気持ちを伝えることが出来ない。

 何か、彼のためだけに用意できる言葉があれば良い。まっさらの言葉を彼に渡したい。それなのに、思いつく言葉はあれもこれも使用済み。

 もしも、の話。

 たとえばもしも、私と彼が手を繋いだとする。私はきゅっと彼の手を握るだろう。でも、それはもう既にやったことがある。彼じゃない、彼で。

 まっさらな言葉以前にまっさらな私がいない。

 傘をくるん、と回すと水滴がぱっと広がった。雨の花が咲いた。そして、その雨の花の間から「リサイクルにご協力ください」の文字が見えた。何度も雨に打たれ、錆付き始めた古そうなくず入れ。中で空き缶たちがぐったりとしている。すっかり使い果たされてしまっているみたいだ。それでも、いずれ溶かされ、再び缶になる。もしくは他の金属製品。そうやって生まれ変わる。その時彼らはきっと、使用済みではないんだろう。まっさらな、新品のそれ。

「君じゃなきゃ駄目」

 果たしてそうだろうか。これで何人目だ。それでも、私は本当にそう思っている。嘘じゃない。今も、あの時も、この言葉を発したどの時も、それは嘘じゃなかった。

 新品じゃない、中古の言葉と気持ち。そして、私。

 ぽたり、と傘の淵から手の甲に落下した水が沁みる。骨の髄まで沈み込んでいくみたいな気がした。

 雨のカーテンの向こうから何度も見つめた人影が近付いてくる。見間違える筈がない。きゅっと、一際強く胸が高鳴った。傘を持つ手が震える。思わず彼の方から目を反らしてしまった。

 本当は分かっている。あの彼を好きな私は今ここに存在している。あの人を好きな私は間違いなく初めてで、それは使用済みでも使い回しでもない。

 この胸の高鳴りは他の人とは違う。彼が特別なわけじゃない。どの人も違った。

それでも今日の私は、昨日よりももっと彼を好きになったと思う。明日はきっと今日よりもっと彼を好きになる。でも来月はどうだろう。来年は、再来年は。そうなるともう誰にも分からない。

 本当に怖いのは、この気持ちも思い出になってしまうこと。現在進行形じゃない、過去の産物。 

そうならないことを願って、私は彼の方へ向き直る。

関学祭!!

昨日から4日まで関学は学祭をおこなっています。

私たち文芸部も部員の書いた小説や詩を展示しています。
小説の見本についている帯やポスターは部員の手作りです。
2か月ほど前から学祭に向け、頑張ってきたので学祭当日はみんな張り切っています。
とくに1回生は看板制作、かなり力を入れたものを作ってくれました。

小説は無料配布を行っているため、ぜひ気に入った作品がありましたらお持ち帰りください。
また、『関學文藝』という4回生が書いた作品を集めた本も販売しております。よろしければこちらも手に取ってみてください。
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