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不定期連載 習作:僕のいる(非)日常

当作品は、40%の事実と、50%の嘘と、10%のノリで出来ております。(しるく調べ)



 日41月6

 

 世界を救う旅に出ようと決意した僕は、早速準備に取り掛かることにした。

 基本的に必要なものは少ない。世界を救うにしても、『準備が必要なもの』で救うならば、それなりの量が要求される。ならば、この身、この僕自身で世界を救うほかあるまい。金欠なのである。

 ナイフ、ランプを鞄に詰め込むこともなく、韓国語の教科書を詰めて僕は家を出た。自転車を漕ぐたびになにか軋むような音がする。次の街で『高級自転車』でも買わなければならないのかもしれない。耳障りな音を、曲のボリュームを上げることでかき消した。

 途中、学生服の青年にレースを挑んだり、向かってくる肉壁(人×2)をカカッと避けたり、ミスもなくステージをクリアしていく僕は、まさに世界を救う勇者。何の障害もないのは何ともつまらないが、≪優しいモード≫であるならばまぁこんなもんだろう。

「君」

 しゃべりかける前にしゃべりかけられた。いつの間にイベントシーンに入ったのだろう。

「イヤフォン。危ないから」

 信号機[Unbreakable object]に引っかかって、交番の前で止まっていた僕に、駐在さん(Lv.30前後)が機械的に言ってきた。面倒そうな表情である。

「勘弁してください。このイヤフォンはCap13と馬鹿に軽い癖に、音ダメージ無効、コンディション低下半減、睡眠時間短縮と言う神性能なのです」

「はいはい」

 ものの四文字で神性能は無効化された。音ダメージ無効効果はどこかへ逃げ出したようである。僕は渋々イヤフォンをインベントリに収めた。信号機が赤から青へと変わる。

「では」

「次見かけたら用紙に記入してもらうからね」

「分かりました」

 二度と通らなければ良いのである。マップにチェックを入れる。

 しかし、今のは実にMPダメージが大きかった。これではメラゾーマはおろかマヒャド……イオナズンはもっての外であろう。なんとなくパルプンテは撃てる気がした。

「仕方ない。持ち合わせはあんまりないけど、回復アイテムを買っていくべきか」

 僕とコンビになりたいと抜かすショップに足を踏み入れる。いつもなら量は少ないが、味とHP回復効率の良いミルクティを選ぶところだが、今日はMPである。ジャスミンティ(1L:103円)を購入した。

 代金を丁度払い、品物を渡され、袋のなかを見るとストローが無い。

「すみません」

「あ、ストローですか?」

 分かっててやったのか。鞄に手が伸びる。確か戦場ヶ原キット(ホッチキスと鋏)は購入しておいたはずである。

「どうぞ」

「……はい」

 だが、装備タブを変更する前にストローを差し出されてしまったので、装備出来なかった。策士である。

 自動ドアを潜り、なんだか負けた気分で自転車にまたがる。不快な音はなおもカリカリと立っている。なんだよ。世界を救う勇者だぞ……。

 そうして今日も、勇者は魔城にたどり着く。

不定期連載 習作:僕のいない日常

 

 6月6日

 

 今日もネットに繋がらない。

 バイトがほとんど定時で終わり、≪アンハッピーリフレイン≫などを口ずさんだりしながら、途中でチョコアイスを買ったりなんかしていたのだが、やっぱり繋がらない。

 最早母親に声をかける元気もわかず、意味ないと分かりながら『切断』と『接続』を押してみるが、もちろん接続不良を示す黄色いマークは消えてくれない。ルーターの電源を切ってもみたが、どうにも駄目だ。

 詳しい人に聞かないとなぁ……と、布団に倒れこむ。ほかに何をすべきなのだろうか。取り敢えずつけたPSPが正解でないことは確かだろう。

 よく分からないうちに繋がらなくなったのだから、よく分からないうちに繋がるようになるだろ……。

 朝、画面の暗くなったPSPが枕のわきに転がっていた。セーブはされていなかった。

 

不定期連載 習作:僕のいない日常



人に読ませる日記。練習中であります。


 6月5日

 先輩との講習会の帰り、ヨドバシカメラに寄って母と祖母と合流することになっていた。

 着いたよ、と言う旨のメールを母に送る。すぐさま、四階に来て――との返信があった。

 日曜日と言うこともあって人が多い。おじいさんにその子であろう男性が付き添っていたり、おばあさんが一人で洗濯機売り場を歩いていたり……生活家電売り場と言うこともあって子供の喧騒とは無縁そうでなによりだった。

 しかし、二人が全く見当たらない。空気清浄器だのエアコンだのの稼働音が低く唸るように聞こえてきた。――そんな小さな不安に答えるように、ポケットの携帯が震えた。

「もしもし」

『今どこ?』

母だった。

「エアコン売り場」

『掃除機売り場に来て』

 お使いイベントじゃないのだから……。ゲームの主人公になった気分だった。

 掃除機売り場は丁度真反対だった。通路をカウンター待ちの列が塞いでいる。溜息が漏れた。隙間をすみませんと声をかけつつ通り、掃除機売り場にたどり着く。しかし、二人の姿はない。奥の方かと行ってみるも、やはりいない。……通路側だろうか。速足でエリアを抜けると、二人が電池の売り棚の前に立っていた。足元に大きな段ボール箱が置いてある。

「お待たせ」

 声をかけると、母が顔を上げた。

「ありがとね」

 箱には大きく、食器洗浄機と書かれていた。社名はパッと見わからない。

 ――重いよと祖母が言った。持ち上げてみる。なんというか重いと言えば重いのだが、機械独特の浮くような重さが腕にかかった。

「今って便利ねぇ」

 ヨドバシからの帰り道、祖母が口を開く。

「携帯でどこどこにって連絡が出来て」

「そうね。『吉祥寺に』って言っておいて、着いてから合流できるし」

 ……それは面倒じゃないか? 最初から『ヨドバシ四階、掃除機売り場』の方が楽だろう。……などとは言えず、巨大な箱を前かごに乗せた自転車を、黙々と押して家へ向かった。

相合合傘


当作品は異常な(没くらいまくったやけくそ気味の)テンションで書かれております。
ギャグが苦手、ネタが嫌い、シルクが嫌いな方は、戻るを推奨いたします。







【相合合傘】


 ――今日は全国的に晴れ!
 天気予報のお姉さんの笑顔が恨めしい。いっそ殺意すらわく。
豪雨である。土砂降りである。雲氏による白昼堂々の犯行である。次からは別のチャンネルを見るしかあるまい。
 雨粒の奏でる穏やかでないBGMが包む喫茶店のなか、万梨阿(まりあ)さんは黙々とジャンボパフェを攻略していき、萌恵(もえ)さんは飛沫(しぶき)でかすむ商店街を眺めている。思い出したようにケーキを口に運ぶが、一口食べては溜息を吐き、また外を眺める。見ているこっちの息が詰まる。恐る恐る珈琲を一口。
 一体彼女たちは何を考えているんだろう。まったく理解できない。……いや、理解不能なのは今に始まった話ではないか。
 ことの原因は昨日の夜である。

 ――は、はるだー!

 デコレーションがメインとなりつつあるメール。それを映し出す携帯。恭(うやうや)しく掲げ、僕は叫んだ。母が何か言ってきた気がしないでもないが、知ったことではない。それどころじゃないのだ。
『お話があります。明日の正午に駅前の喫茶店で待っています』(意訳)
 クラスで大人気(僕調べ)の万梨阿さんからのお誘いである。喫茶店へのお誘いである。デート! すなわちデートだ。うへへ。
『了解』と返信。……少し無愛想すぎるだろうか。いや、クールな僕に痺れて憧れてくれるかもしれない。だってメール来たわけだし。メールが来る時点で好感度は低くないはずだ。
 いつもの癖で枕へ携帯を投げそうになるのをこらえ、保護、データフォルダへコピー、SDカードへコピー、転送、SDカードへコピーコピーコピーコピー……完璧である。
 さて、寝よう。明日は決戦なのだ。事前の準備は入念にしなければならない。我ながら気味の悪い笑みを浮かべてベットに横たわり、眠りに落ちた。
かーらーのー寝坊である。
「お約束過ぎるわばーか」
 階段を駆け下り、風呂場へと直行。静かに降りろとの声が聞こえたが無視だ。人生には急がねばならないときがある。手早くシャワーを済ませ髪を乾かし服を着、バッグを肩にかけた。
「あ、傘持っていきなさい」
 お母様が僕の背中にそんなことを言う。
「持ってるよ」
 バッグにはきちんと折り畳み傘が入っている。……もっとも、今日は使わないだろうがな。天気予報のお姉さんが笑顔で今日は晴れと言っていたのだから。いくら梅雨でも一日ぐらい晴れ間は欲しい。
 ドアを蹴破る勢いで開け、ずれたバッグの紐を肩に乗せなおす。家から駅までは約十分。
 ところで、折り畳み傘は何本持ち歩くだろうか。
僕は二本だ。人に傘を貸す機会というのは多いわけじゃないが間々あるだろう。そんなときに一本しかない傘を貸すのは、たとえ僕はよくても相手が遠慮してしまう。申し訳なさを感じさせてしまう。良いことのはずなのに。だから二本だ。
「大丈夫。二本あるから、使ってくれ(キリッ」
 なんという紳士。流石僕だ。みんなも真似してくれてまったく構わない。
 今日だって、もし、万が一、お母様の言う通り傘が必要になったとしても、相合傘して帰るか傘を貸して帰るか……選択肢が広がるね! 前者であることを切に願っております。
駅に近づいてきたので、速度を緩めた。息を切らして店に入るのはみっともない。僕がスポーツ青年とかならまだ絵になるが、あいにく吹奏楽部。おかげで持久力はあるのだが。息を整えながら、喫茶店を目指す。
 昔ながらなベルの音が響いた。木製の扉。枠に蔦を絡めたガラス窓。随分と昭和な印象だ。なのに、レジだけシステマチックでちょっと浮いている。もったいない。
「お一人様でしょうか?」
 金髪のよく似合う女性だった。昭和には微塵も似合っていない。なんで雇ったんだ。
「いえ、待ち合わせです」
 店内を見渡すと、少し奥まった窓際の席に彼女の後姿を見つけた。ふわふわした長い髪の毛で分かりやすい。店員さんのわきを抜け、僕は彼女の待つ席へ向かう。向かい側の席に腰かけた。
「おまたせ」
「「こんにちは」」
 ――括弧一つ多くない?
 万梨阿さんは笑っていた。マジ天使。……だが、どことなくぎこちない。彼女から目を離すとか正直ちょっと考えられないけど、今は彼女の笑みを曇らせる理由を探すべきだ。視線を横へ滑らせ……やぁ萌恵さん……。
「何故いるんだ、という顔だな」
 萌恵さんは口端を釣り上げ、足を組み替える。かわいい万梨阿さんに対し、彼女、萌恵さんは格好いいとかそういう形容詞が似合う女性だ。隣のクラスで大人気(友人調べ)である。
「あの、まりあさん。今日はどんなご用件だったのですか」
「あのね。実はね。ちょっと聞いてくれる? あたしが声をかけたこと萌恵ちゃんに言ったら、私も行くとか言いだしてね。あたしは二人でお話したかったのに」
「おいおい。勘弁してほしいな。私は公平に決めてもらおうという旨を君に伝えたはずだが」
「……知らないもん」
「あの……で、結局なんなんです?」
「「三角関係」」
 快晴だったはずの空が雲に覆われていることに、僕は気づいていなかった。

 万梨阿さんはジャイアントパフェ、萌恵さんはチーズケーキを。僕は――トンと、金髪氏が笑顔で僕の前に水を置いた。「あちらのお客様からです」「お断りします(珈琲をお願いします)」二人に向き直る。
「お待たせしました」
 魔法でも使ったのだろうか。厨房に戻る素振りすら見せなかったぞ。僕今喋ろうとしてたんだけど。
 グラスにスプーンの当たる澄んだ音、皿にフォークの当たる金属質な音が立つ。カチャ――静寂に時折響く。超怖い。勘弁してほしい。もう口開いたら延髄チョップ喰らうのではなかろうか。万梨阿さんはまったく美味しくなさそうに食べるなぁ……目がすわってるじゃないですか。親の仇ですか?
「それで、一体なんなんですか」
 とはいえ聞かないわけにはいかない。恐る恐る僕は口を開く。
「私か万梨阿か、好きな方を選ぶといいよ(どやぁ」
 もえさんはフォークを置いた。妙に自信満々だ。
「選ぶって、つまり」
「どちらかの好意を受けて、どちらかをフれという話だよ」
「あの、つまり萌恵さんも……」
「あぁ、ちゃんと明言した方がいいか。好きです付き合ってください」
 罰ゲーム。彼女の言葉を聞いて思った。嬉しくねぇ。
「あ、あたしも! あたしもだから」
 いやー、嬉しいなぁ。まさか万梨阿さんに好意を寄せられていたとは。夢じゃないよね。現実だよね。萌恵さんの視線が痛すぎてどうやらこれは現実らしいと実感。
「さて、どうする?」
「どぉする?」
 どうする、どうするよ僕! ライフカードは見当たらない。僕のライフはもうゼロなのか。
万梨阿さんは普通に好きだし。付き合ってと言われれば、はいよろこんでーだろ。おそらく学校で殺されるだろうが、一瞬でも彼女の彼氏になれるというなら本望である。
では萌恵さんは……これもまたなかなか難しい。付き合えたら幸せだなーレベル。おそらく学校で殺されるだろうが、一瞬でも以下略。
まったく、人生の絶頂期かもしれんね。
顔を上げる。万梨阿さんはにこにこしているし、萌恵さんは優雅に紅茶など召し上がってる。なんでだろう。僕が矮小に感じる。
「あ」
 万梨阿さんが声を上げる。声に視線を向けると、彼女は窓の外を見ていた。視線を追う。窓ガラスを一筋水が垂れたと思うと、一気にガラスが埋め尽くされた。豪雨と呼ぶにふさわしい爆音を奏でる。
「雨、降るなんて」
「傘持ってないなぁ」
「止むかな」
「どうだったかな。明日まで続くんじゃなかった?」
 萌恵さんなんで傘持ってこなかったん?
「傘持ってるかな」
 不意に視線がこちらへ向けられた。え、傘ならあるけど。
「入れてくれない?」
 答えを聞かずに、萌恵さんは僕にそんなことを言う。澄ました顔からは考えは読み取れない。
「ぬ、抜け駆けしないでよ。ねぇ、あたし入れてよ」
「万梨阿は良いんじゃない? だれかに迎えに来てもらえばさー」
「ちょっとやめてよ」
 二人はなんだかよく分からない(と思いたい)会話を繰り広げる。僕は一度バッグの中身を確かめた。……傘は二本。完璧だ。流石すぎる。
「ケンカしないでよ。大丈夫だから」
 万梨阿さんの表情が輝いた。やべぇ超眩しい。太陽(アマテラス)の生まれ変わりなんじゃないかな。……一方、もうお一方は極寒だった。エターナルフォーうんたらレベル。「濡れて帰れ……と?」そんなことをおっしゃる。なにを言いますか。レディーにそんなことは申しません。
「じゃぁ、あたしは?」
 万梨阿さん。少しお話を聞いてください。
「二本あるんだ(キリリッ」
 決まった―二人の顔が申し訳のなさそうな笑みに変わった。
「……一人で帰ればー?」
「そっちこそ帰ればー?」
「あたし相合傘とか憧れちゃうなー」
「私方向一緒だったよねー。確かー」
「……ケーキ食べ終わったなら帰ればー?」
「パフェ終わらないなら残って食べれば?」
「もー、なんなのよホント!」
「ヒスるなよ、みっともない」
 ―あぁ、どうしてこうなるかな!
 傘をバッグから取り出し、二人に差し出す。何か言ってくる前に席を立ちレジへ。うるさかったからか、それとも野次馬か、店員さんはレジで笑いを隠しもせずに待ち構えていた。最初は雰囲気に合っていなかったレジも、今は頼もしい。「Suicaで」と、財布をパネルにたたきつける。

 ――残高(ガッツ)が足りません――

 店員が吹き出した。
「おつりは彼女たちに渡せば良いです」
 五千円札をトレイに捨て、僕は扉を蹴破る勢いで店をあとにした。二度と行けないな。
 雨が更に強くなった気がした。

「だから傘を持っていきなさいと言ったでしょう」
 お母様の小言は今日も絶好調である。雨に濡れて帰ってきた息子に対して、大丈夫だった? とかそういう台詞は出ないのであろうか。出ないんだろう。――次からは三本にします。返すと、訳が分からないといったふうに眉をひそめた。
 水滴を滴らせながら僕は風呂場へ向かう。当然お母様の小言が響くが、無視だ。今の僕に話しかけないでくれ。熱いシャワーを浴び、湯船につかる。至福……。今日は大変だった。しかし、さっき時計を確認した限りではまだ午後二時。二時間ほどしか出ていなかったことになる。濃い時間だった。恋時間……やべ、超うまいこと言ってしまった。
 携帯がチカチカと光っている。タオルで髪を拭きながら、取り上げた。メールだ。
『『だれにでも優しいんだね』』(意訳)
 お前らなにがしたかったんだよ。

                                    僕の青春END


『毒』

誰もいないホームは怖い程寒々しく、冬の太陽も早々に諦めたのか雲の裏に隠れていた。鈍い灰に覆われた空は、午後辺りから雪が降り出しそうで、僕はそれを見上げて少し憂鬱になった。
口端の揺れる紫煙が、通り過ぎる電車が巻き起こした風に煽られて僕の顔に掛かる。少し噎せて、僕は煙草を一度口から離した。
慣れない事はするもんじゃないな。
塾の職員室からくすねた煙草なので、銘柄もなにもあったもんじゃないが、煙を味わってみるために僕はもう一度口にくわえた。
「――志望校を変える?」
帰り支度をしていると、塾長は僕に言った。
安全圏内の大学を目指し、確実性を重視して大学選びをしていた僕は、その中で気に入った一つを目指していた。だが、どうやら塾的には行ける所まで行って頂きたいらしい。
「何故ですか」
「君の実力なら、もうワンランク……いや、ツーランク上も狙えると、私は思うんだ」
自信満々に紡ぐのは、今までの経験からか、それとも僕のためか。僕には分からない。ただ脂ぎった髪の毛が実に気持ち悪かった。
「僕は、今の志望校を気に入っていますし、行けるのと行くのは違います」
そう断り、一応一礼。また支度に戻る。塾長は落胆した風もなく、次の獲物を確認するためか、手帳を取り出した。
進学塾の名は伊達じゃないな……。コートを椅子の背から取って羽織りながら、僕はぼんやり思った。
「――グフッ」
そんな回想を、喉に突き刺さる煙が終わらせる。さっきのように煙草を口から離し、咳き込んだ。
「ゴホォ!ゴホ……あぁ……」
垂れ下がった手から、煙草がこぼれる。足でもみ消す前に、やってきた電車の風に煽られて、木っ端の如く飛んでいってしまった。
バラバラと乗客が降りていく。その中に知った顔を見つけるが、それは僕を見留めると素早く眼を逸らした。
コートのポケットに手を突っ込む。指先が煙草の箱に当たった。――いらないな。やっぱり。
電車に乗り込まない僕を訝しむ目線を幾つか感じたが、ドアが閉じ、電車が走り出すと、結局何も残らなかった。
箱を掴みだし、目線を落とす。青い箱――それだけ確認して、まだ半分残っているソレを握りつぶして捨てた。
「――毒は吸うもんじゃぁないな」
ぼんやり呟いてから、僕は改札へ向かった。