前回までのあらすじと続き
不思議電波なサークルの先輩の突然の提案により,急遽お弁当おかず交換という心トキメク一大青春イベントを行うことになった私。
しかし,手抜きと地味という乙女の“お”の字も垣間見られないほど質素なおかずしか入っていなかったために,先輩に笑われ馬鹿にされ(被害妄想)見事大敗を喫した私は,次回は必ずや卵焼きとタコさんウインナーを作るということを心に誓い,リベンジに挑んだのであった。
そして,リベンジ当日。
奇しくも1限目から講義が入っていた私は,朝の6時に起床した。いつもより1時間以上も早い。エプロンをして薄暗いキッチンに立つ私は,さながらデート当日の早朝に彼氏を想って浮かれる少女……なんていう生易しいものではなく,天下統一秋の陣で戦場を前にした決戦直前の将軍のような殺気を纏わせていた。
一つ深呼吸をして包丁を持った。赤いお弁当用のウインナーに切り込みを入れていく。そう,何を隠そうタコさんウインナーである。きちんと足を8本切ってフライパンで焼く。問題なく完成した。
次に卵を割る。冷蔵庫に4つ残っているうちの3つ。砂糖,塩,みりん,しょうゆ,酒を入れる。軽く溶く。巻いて焼くを繰り返す。きれいな厚焼き卵,問題ない。冷ます,切る,味見する。
………しょっぱい!!!
あまりの塩分濃度に焦る。突然の出来事に慌てて水を飲んで中和して,落ち着いて作業工程を振り返ってみる。そしてとんでもない過ちに気が付いた……。味付けで砂糖,塩,と入れる場面で,私は誤って塩,塩,と入れてしまっていたのだ!!その証拠に片づけた覚えのない砂糖の容器が見当たらない!!
な,なんてこったい……慌てて作り直そうにも,卵が一つしかない。悩む間もなく,あきらめた。別に彼氏や好きな人に弁当を渡すわけでもないし,私はおかず交換のために卵焼きという存在が弁当に入っているだけで満足なのだ。たとえ料理下手と先輩に思われようが関係ない。おかず交換という青春イベントさえクリアできれば,砂糖と塩間違えちゃいましたテヘペロ☆とドジッ子アピールでもしておけばいいのだ,問題ない。
そっからは昨日のうちに作っておいたおかずをひたすらチン。チンチンチン。リラックマのふりかけを付属させれば,見事完成!冷食全く使わない弁当とか大学入学の気合い入ってた時期以来だよ。たぶん彼氏でもできない限りは今後二度とこんな機会訪れまい。
意気揚々と学校に向かい,そしてお昼休み。先輩に会うべく部室にダッシュ!!そりゃあもう恋する乙女のように走る。なぜそんなにも頑張るのかって?……みんな知っているでしょう?
私が無意味なことに労力を費やすのが好きなことくらい!!!
部室に入って先輩発見。ニタニタと気味の悪い笑みを浮かべながら先輩に話しかける。
「ふふ…っ。先輩先輩!私先週の宣言通りに卵焼きとタコさん作ってきたんすよー!」
自分でも気持ちが悪い第一声である。
「え!?マジで?嘘はいくない,見せてみんさい……」
昼休みが始まり5分も経っていないのにもう弁当を食べ始めていた先輩とその他大勢が箸を置いて私の周りに集まってきた。
「ドヤぁあああ!!」
我ながらまったくかわいくない掛け声である。
「おおお………こ,これは想像よりはるかに出来がいい…」
先輩唖然。ドヤぁあああ!!これが私の力じゃい!!!
「タコさん!タコさんをどーぞ!ちゃんと足も8本あるんで!」
とにかくタコさんウインナーを勧めた。初っ端から卵にいかれたら,それこそ出オチだ。
「おう……うん,うん……,うん。ウインナーの味が…,するよ」
もっともである。ただ切って焼いただけなんだから味に失敗も成功もあるはずがない。しかし“感想どうしよう”みたいな目はやめろ。私だって困る。
その後ポテサラやらフライやらエビチリやらを食す先輩。食いすぎだよ。おいしいおいしいって言ってくれるのは嬉しいけど私の弁当すっからかんじゃねーか。
(ちなみにこのとき,ポテサラにりんごを入れるか,マヨネーズ以外のものを掛けるかで議論が勃発した)(さらにちなみに私はりんごを入れてマヨと胡麻ドレをかける派である)(さらにさらにちなみにりんご入れるのは私だけだった)
そして最後の最後についに先輩が卵焼きに手を伸ばした。き,キターー。
「俺卵焼きはだし巻きより砂糖派なんだよね……」
期待を裏切ります,ええ。出汁でも砂糖でもなく塩ですすみません。と,心の中で誤りつつ,私の顔はそりゃあもう目も当てられないくらい最高潮にニタニタしていた。
「何笑ってんの……なんかあんの?」
イエ,ドーゾ。最早ニタニタの臨界点を突破して片言である。そしてついに先輩が食べた。
「……………うん………,うまいよ」
リアクションうっす!!ツッコめ!!気まずい顔して目をそらすな!!つーか美味いとか言っときながらめちゃくちゃ白米掻き込んでんじゃねーかwww
「先輩,無理しなくていいっすよwwwそれ砂糖と塩間違えてかなりしょっぱいんでwwwww」
先輩はなんだよーとか言いながらめちゃくちゃ安心した顔してた。
「最後の最後でとんでもない兵器ブチ込んできたからさ,めっちゃ頭の中でフォロー考えたわー。さっきの顔は自信の表れかと……まずいって言ったら傷付くかと思って超焦ったわww」
他の部員が卵焼き食って絶叫してた。そんなにひどいか…。に,しても先輩意外と優しいなww
ちょっとときめ……かなかったかな,別に。
一段落ついて,さあご飯を食べようと思ったら,おかずがない。まあこの日はまたもや親不知が腫れて(何度目だよ…)顎が痛くて開かなかったから,ご飯は諦めようと思ってたら,先輩が自分の弁当持って再び参上した。
「代わりのおかずあげるねー」
「あ,私今日歯が痛いんでいいっすよ。先輩食べてください」
「まあいいからいいから………」
その言葉とともに大量に弁当箱に放り込まれる大量のシューマイ…。そりゃあもうゴロゴロゴロゴロと。
「……え,あの……,これ…は,」
「おかず交換のお返しだよ。残さず食えよ」
「え………はい」
くそ……っ!や,やられた!!!
またしても……なんだこのシューマイたち…謎すぎるだろうよ先輩。この勝負永遠に勝てねーよ,絶対(先輩は勝負しているつもりはありません)。
私は顎の痛みと格闘しながら30分を掛けてシューマイを食べた。開かない顎にボロボロとご飯を落とす姿に次期部長から汚ねーよと罵られた。
「だって歯が痛いんだもん」
「口いっぱいにもぐもぐされて言われても説得力ゼロだよ」
チッ!これだから歯の痛みがわからんヤツは!と言いながらも完食した。
「前から思ってたけどさ,ホントに品がないよな…」
ほっといてくれるかなあ!!!
勝負はまたもや大敗を喫して幕を閉じた。