とても悲しい出来事がありました
それは私にはどうにもできないことでした
私の体の中から私にはコントロール不能な別の人格が産み出されるということはただの恐怖であり生理的嫌悪であり、喜ばしいこととは到底思えないことだったのです
私は自分の意思とは無関係に白い病室に閉じ込められ体温を計られ血液を採取され名前も知らない赤の他人に体を蝕まれ続けました
抉り取られた私の体にはただ有るだけの使い物にならない臓器と傷痕だけが残りました
私の母や姉、そして私に熱を与えてくれたあの人は顔面にはりつけたような笑顔でよかったね、おめでとうと私の手を握って言ってくれました
何がよかったのか何がおめでとうなのかその意味がさっぱり理解できず私はただ同じように顔面に笑顔をはりつけてありがとう、と言うしかなかったのです
私の中から産み出されたもの、私が産み出してしまったかもしれないものは、今どこでどうなっているのか、誰も教えてはくれませんでした
今はただ、私の一部であり私の肉片であり私の魂であったあの子に手を合わせるだけなのです