「………」
こっそり、とベッドまで近付いてみると……すぅすぅ、と規則正しい寝息と………ラルの可愛らしい寝顔がそこにあって。
………とりあえず、起きる心配はなさそうだし………早くプレゼントを置いて、逃げちゃおう…。
…………。
………にしても…
……冷静に見てみれば見てみる程、やっぱり変だ。
………何でこんなに、いつも通りなんだろう…。
ベッドの脇にプレゼント用の靴下が吊されている訳でもなく…………勿論、サンタさんへの手紙が用意されてる訳でもなく。
………それに…。
「……………」
………どうして普通に寝てるの、ラル…。
サンタさんを信じてる子どもが、イヴの夜にこんなにもあっさりと眠りにつくものなのかな…。
………いや。ボク等が小さい頃は確か、由希と凪亜ちゃんは大はしゃぎで「サンタさんに会うんだ!!」って言ってた気がするし、姉さんに「夜更かししてる悪い仔の所にはサンタさんは来ないのよ」って脅されるまで、寝ようとすらしなかった気がする。
………やっぱり考えれば考える程、変。
「……………」
………まぁ、良いや。
ボクだってラルの事とやかく言える程、イヴの日にサンタさんに必死になってた訳じゃないし(勿論小さい頃はサンタさんを信じてたし、プレゼントも嬉しかったけど………少なくとも由希達程は必死じゃなかった)。
だったら、こう言う風にサンタさんに会う事への執着のない子どもも珍しくないのかもしれない。
早くプレゼント置いて………
「捕まえた」
「………っ!?」
…………まずい…。
………ぼんやり、と考え事をしていたその手を真下から引かれて…どさり、とラルの上に倒れ込んだ時、とっさにそう思った。
………寝てたんじゃなくて………タヌキ寝入りだったんだ…!!
「…っ……」
「ホント………勉強、とか言いながらいきなり出ていくし、なんな………………え?
…………」
……ああ、そうだった。
大丈夫、姉さんに別人みたいにメイクされてるし、どうにか声も出さなかった。
まだ正体まではバレてないだろうし、声を出さないように逃げ………
「…ミキ。
ナニそのカッコ…」
「……っ…!」
………バレてる…どうして…!?
「………ちょっと…ミキ?何してんの、って」
「…………」
…………あぁもう、最悪だ。
空気読んでよ馬鹿、どうしてタヌキ寝入りなんかするの。
………なんて…ラルを責めても仕方ないけど…。
「………ぼっ…………私、は…えぇと…未希じゃなくて………」
……あぁ、しかもさ。
こんなのでごまかせる訳ないでしょ…ボクの馬鹿。
「…………。
……ふーん?じゃあナニ、誰アンタ」
「…………。
……さ…サンタ、さん…かな」
「……へー。サンタさん、ね?
凄いね、こんな若くてキレーなサンタさんもいるんだ。
でもどうやって家に入ったの?………答えによっては不法侵入で訴えるけど」
もうホントやだ。
真下のその顔は、物凄く意地悪な笑顔を浮かべてるし。
…………何かムカつくし…こうなったら鳩尾でも殴って気絶させて、逃げちゃおうかな…。
……うん、それ凄く良い考え。
ボク、常々自分がラルを甘やかしてる事は自覚してはいたんだよね。それ位やった方が甘えも治るかも。
「………あ。でも気絶させるなら鳩尾じゃなくて後頭部の方が………ラル、ちょっと俯せになって寝てみて?」
「……いやいやいや……。
………なる訳ないデショ、そんな不穏な事言われてんのに…」
………ちっ。やっぱり、そう上手くはいかないか…。
「ねぇミキ。こんな夜中にそんなカッコで人の寝込み襲うとか……ホントどう言うつもり?
……こっちとしては誘惑されてる様にしか思えないんだけど…ねぇ。襲って良いワケ?」
「違っ………ボクだって、好きでしてる訳じゃっ…」
「そうなの?………またアヤ姉に無理矢理させられた?」
「……っそうだけど…でも、原因はラルなんだから…」
「………はぁ?オレ?」
サンタさんを信じているらしいラルには悪いけど、もうこっちだってヤケだ。
大体、タヌキ寝入りなんかする方が悪いんだし。多少は仕方ないでしょ?
「…………っだから………うちの家には、もう随分前からサンタさんは来ないんだよ!」
「…………。
……はぁ?」
「……っ〜〜知ってる?サンタさんってね、家族の人に頼まれて子どもの所に来るんだよ?
でもボク等は随分昔にサンタさんにプレゼントを頼む事をやめちゃったから、姉さんは今年も頼んでないの。
でも、昨日ラルがサンタさんのプレゼントの事言ってたから………姉さんが代わりに、って………ら、来年はちゃんと姉さんが頼んでくれるよ!」
………少し、夢壊すような事を言ったかもしれないけど…これ位は仕方ないよね。
……でも…『流石にマズいかな』と思いそっ、とラルの顔を見上げてみるけど………その表情は何故か、ショックを受けた様子もなく
相変わらずボクの腕を掴んだまま、怪訝そうにこちらを見上げていて。
「………え、ごめん…言ってる意味がワカンナイんだけど…つまり、ナニ?
昨日の話…ってアレの事?サンタがいるかいないか、ってやつ…」
「………?
う、うん…サンタさんからのプレゼント、ちゃんと届くか心配してたでしょ…?」
「………。
…ぶっ…!!……ふ、くっ…くくっ…あっはははは!」
「っ!!」
…何でそんな、お腹抱えて大笑いされなきゃいけないんだろう…こっちはごまかす事に必死なのに。
「っくっ……ふっ…サンタ…ねぇ?
そう。サンタはいるよ?グリーンランドとか……あと、こっちは正式なサンタじゃないらしいけど、フィンランドの山奥とかにね。
………勿論ソリで空飛んだり、煙突から不法侵入してきたり、そんな犯罪紛いのサンタではないんだけど」
「…………は?」
「知らない?フィンランドのサンタ教会にあらかじめ申し込んでお金を払っておくと、贈りたい相手にサンタからのプレゼントと手紙が届く、ってやつ。
リオ、そう言うRomanticな事好きだし………今年のオレからリオへのChristmas presentはソレにしたんだよ」
「……リ、オ……お姉ちゃん…?…………従姉の?
じゃあ…別にサンタさんを信じてるとかじゃ…」
「なワケないじゃん。もうすぐ13歳だよ、オレ?」