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長編「大切な人」最終回

おたべside

「ソルト?ソルトー!?」

あたしの体に抱きついたままピクリとも動かへんようになってもた。

顔を除き込めば一目で分かるような真っ黒なクマ

「ソルトさん寝ちゃったんじゃないっすか?」

ようきにそんな事いいながらソルトの髪に手を触れてる

ちょっとムッとしたけどまぁソルトに触れられるんらこれが最初で最後やろうし・・・

「なあ?なんでソルト泣いたん?」

思わず出た疑問を突発的に口に出した

「え、そ、そりゃー会えたからじゃない??」

なんでか動揺しはじめた

あーんね・・・なんか隠し事してら

「じゃあなんでソルトお見舞にこやんかったんやろー忙しかったんかなー」

わざとらしく見ながら言ったら苦笑いのままヨガが口を開いた

「実はさ、ソルトさんずっとおたべが死んだと思ってたんだよ」

その言葉にポカーンと口を開いたあたし。開いた口が塞がらないとはこういうことやろ。

「は??なんで」

「いや・・・単なるドッキリ??みたいな・・・な??」

同意を求め、はは、ははなんて笑ってる

そんな馬鹿な後輩の頭をこついた

「そんなんされたソルトの気持ちも考えろ!アホ!」

「しーっ、起きちゃいますよ?」

ったく・・・

こんな時だけ知恵働かせて・・・

「でもまさかソルトさんが泣くとは思わなくて・・・」

こいつらの話上ただ単にしゅんとするソルトの顔が見たかったとか

1日ほどでネタばらしするはずやったんやけど着地地点を見失ってあたしが退院する今日までずっと、ソルトの中のあたしは死んでたと・・・

「ってか普通気付くでしょ、葬儀も墓もなかったんだから」

馬鹿にしたようにフッと鼻で笑ったマジック

「あのなぁ?マジック、ソルトの鈍感さ考えてみん?」

一言そう言えば納得したように深く何度も頷いた

「でも・・・やりすぎちゃいましたよね?」

バカモノの指先が目のクマに触れ唇へと移動していく

「起きませんね」

そういいながらバカモノの手が唇の回りや中心を行き来する

「ソルトさん早く目覚まさねぇかな・・・おたべさんが帰ってきたってのに。」

クククなんて笑いながらバカモノの手が首筋を伝っていった

「バカモノ?一応言っとくけどな??それ以上手、下にしたらぶっとばすからな??」

にっこり笑えば引きつったバカモノの笑み

そんななにも変わってへん、メンバーも部室も雰囲気も空気も

全てが全部嬉しくなった

あたしがおらんくなっても待っててくれる場所が・・・人がおる

またソルトといっぱい喋れる

あんな場所でくたばってたまるか

まだ・・・ソルトに言ってへんねん

言うまで死ぬか!

「あんたが好きや」いつか言えたらいいな・・・

ソルトの驚いた顔が早くも楽しみや。

あたしにとって大切な人はソルト。ソルトは・・・


どうやったんやろか

それを知るのはソルトだけであたしが知る権利はない

でも・・・

あたしがソルトの事を好きと伝える権利はあるんやろ?。

《あたしの大切な人。ずっとずっと隣に居て下さい》

【END】

長編「大切な人」10

ソルトside

久しぶりに足を運んだマジ女はいつもと変わらずうるさげだった。

それでもおたべが「死んだ」という事は行き届いてるようで全体の士気は下がったような感じがする。

変わらず、私が通るために開けた道を通り行きたくないあの部屋へと足を運んだ

もうおたべはこの世にいない。

その事実が私の体と心を貫き私のメンタル共にボロボロだった。

それでも私の責任として、負い目は隠したくない

その事実を隠すことはおたべの意義も隠してしまいそうで・・・。

1度深く呼吸をし、鉄のひんやりとする感触とともにドアノブを右に回した

俯いたまま1歩足を踏み入れれば懐かしい、大好きなおたべの匂いがした。

だから・・・思い出してしまうから来たくなかったのかもしれないな。

おたべが大好きだったから、死んだと言う事をまだ心のどこかで認めていなかったから・・・

こんなにも・・・

涙が溢れ出てしまうんだ。

「なに泣いてんのー、ソルトらしくもない」

そんな声が聞こえてきて、胸のどこかがカッと熱くなる

「顔上げなーよ、顔見せて」

もう・・・やめてくれ。これ以上私の心を・・・支配しないで・・・

「ソルト・・・??」

ポンッと肩を叩かれた。

その感触がへんに心地よくて・・・



え・・・感触・・・???

「おたべっ!?」

顔をぱっと上げると半透明で霞んだようなおたべが見えた

「ん?どうしたん??」


おたべの人差し指が私の目をすっと伝った

拭われた涙の層が剥がれおたべの姿がより清明に目にうつった

夢か??いや・・・夢だって幻覚だってなんだっていい。

おたべがここにいれば・・・なんだっていい。

「ちょいちょいー、なんやねん」

ぎゅーっと真正面から抱きついた

そのおたべの温もりがこれを嘘じゃないと証明してくれるようで。

今まで不安だった、感情がおたべに再び会えたことで全て爆発してしまった

まだこれが信じられない

本当におたべか??

でもこの匂いや、感触や優しさは・・・きっと・・・

おたべなんだろう・・・





長編「大切な人」9

ソルトside

私は今日、けじめをつけるためにあそこにいく。

けじめを・・・縁をひとつとして残さず切るために

私は部長失格だ。

弱くて臆病者でなにも出来ない、全てが嫌になって逃げ出して情けに答えられずへまばっかして。

なにしてんだろ、自暴になった時だって、人が助けてくれた

もう嫌なんだ、飽き飽きしたんだ

ここまで弱い自分に。

久しぶりに履いたブーツは改めて見てみると嫌な赤黒色がこびりついていた

あの日も・・・この靴で出掛けたんだ

これはきっとあいつの返り血

息が乱れてきて体中を嫌な汗がダラダラと流れてくる

頭がぐるぐるとせがわしく回ってきて何が何だか理性が止まらなくなる

数分間地面にひたりこんだまま一本として動けなかった


でも今日は行かなきゃならない。

思う人がいなくなったあの部室に。

けじめをつけに行かなきゃ・・・。

おたべがいなくなったあの部屋に、入るのが本当に怖かった。

長編「大切な人」8

マジックside

ちらっとあのソファーを見れば主を無くした寂しげな姿が目に入った

ソルトさんが学校に来なくなって・・・もうひとつきか?

相変わらずヨガはソルトさんにべったりらしいし、バカモノもソルトさんの席を睨んでる

あの後バカモノに話を聞けば、やりすぎたと自覚しているらしい。

確かにおたべを慕っていたバカモノはソルトさんが憎いらしい。でも「人殺し」までとは思ってないみたいで反省はしてるっぽい

「なあバカモノ」

「なんだよ」

バカモノのつぶらな瞳に私が映ったところで口を開いた

自然と顔がニヤけてしまう

「この後さ、行かないか」

「どこに」

「会いにだよ。あんたのだーいすきなあいつに」

そう言えばむっとした怒りっぽい顔になった

「皮肉か??それとも本当に?」

「さぁ?どっちだろ。まあどっちに会いに行くかは決めていいよ」

バカモノの好きなあいつに会いに行くか・・・それとも尊敬してるあいつに会いに行くか

まあどちらとは言えないがバカモノならきっと両方を選ぶだろう

「じゃあ私は・・・、先に......に会いに行く」

「そっか、先に、でいいんだな」

「あぁ」

どこに行ったかなんてまだ言えないけれど、ひとつだけヒントを教えてあげる

バカモノのだーいすきなあいつに会いに行ったんだ

ネタ借り。流血注意。ソーソーコンビ

たかみなside

しょうがないよね・・・由依が悪いんだ・・・

目の前でヒューヒュー苦しそうに息をしているのは私の後輩であり次期総監督となる横山由依

由依の周りには真っ赤な血の海が広がっていて、そばには鮮やかに染まった小型のナイフが落ちていた

「由依・・・苦しい?」

「たかみ・・・さん・・・」

ケホッと中身のない乾いた咳は由依の呼吸を苦しめるだけ

「悪いのはどっち?」

「あたし・・・で・・す」

今度の咳は真っ赤な血と共に吐き出された

「由依が悪いんだよね・・・由依が悪いんだ」

由依の腹には痛々しい深い傷がある。そこから泉のように血が溢れ出てた

「ごめんな・・・さい・・」

涙がぽろぽろしずくのようにあふれでていく

「その涙はなんだ?。痛いから?苦しいから?悔しいから?辛いから??」

傷口をつま先でトントンと叩く

一瞬息が止まってもうなにも答えなくなった

死んだわけじゃないし意識もまだあるけど。

多分もう喋る気力がないんだ

「由依は・・・総監督になりそびれた仮だね」

「っ・!・・ハァハァ・・・」

「助けて欲しい?」

携帯片手にそう言ったら首を横に振った

「ん?」

「あたし・・・は悪い・・・子やから・・・死んで・・・償わな」

苦しそうに辛そうに・・・でも真っ直ぐ目を捉えて最後の言葉を残していった。

由依が悪い。由依が悪いんだ。

でも・・・助けてあげることは出来たのかな?

由依を苦しみから救うことぐらいは・・・

出来たのか・・・?。

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