生存確認
 虎伏(呪術廻戦)
 2018/11/21 03:30

「顔色悪いわよ」

朝一番、教室に現れて真っ先に釘崎が発したのは、おはようの挨拶ではなくこれだった。
え、そうかな、と自分の頬に触れながら声の方を見ると、釘崎は俺じゃなくて伏黒を見てた。

「体調悪いの?」

普段姉御肌というか兄貴肌というか、豪胆でありながら女子らしく細かい所に気が付く釘崎だ。俺には解らなかった変化に気付いて、目を逸らそうとする伏黒を覗き込む様にして追い詰める。
顔近い。そんなに近付かなくたってよくない?

「……寝不足なだけだ」
「寝不足ぅ?何やってたのよ昨夜」
「わざわざ言う様な事じゃねぇよ」
「………」

寝不足か。言われてみると、ちょっとだけ顔が白いかも知れない。
本を読むのが好きな伏黒だから、夜更かしして新しく買った本でも読んでたのかな。
そう考えて納得してたら、釘崎が何とも言えない顔で俺を見てた。

「?なに?」

別に、って忌々しそうに言って、釘崎は自分の席に座った。もう直ぐ始業の時間になる。俺も伏黒も席に着いた。
別にって言った癖に、釘崎は何だか厳しい目で俺を見てる。意味が解らなくて首を傾げると、はぁ、と溜め息を吐かれた。









「ちょっと伏黒、あんたどっか怪我してんの?」

開口一番、釘崎はそう言って、大股で伏黒に近付いた。
前回の寝不足には気付かなかったけど、これは流石に俺も気付いた。今日の伏黒は動きがぎこちない。
何でもないって釘崎に答えてたけどどう見ても何でもなくはなくて、つまんない嘘いーから、って言われてた。

「腰やったんだよ、昨日」
「腰?」

昨日の伏黒は、ひとり任務の依頼を受けて高専を出ていた。帰って来たのは恐らく夜の10時頃だ。その頃、隣室のドアが開閉した音を聞いた。
様子を見に行きたかったけどどう考えても疲れてるだろうし、この間の寝不足の件もあるし、俺が尋ねて余計な気を遣わせるよりはゆっくり休んで欲しかったから、我慢した。
だから今朝会った時、歩き方が何か変だなとは思った。何処かを庇ってるみたいな。
多分昨日の任務で怪我をしたんだろうと思ったけど、伏黒が言わないなら訊き出す事もないって。とりあえず今は。今日一日ずっと辛い様なら、夜に確認しようとして。

「腰ってあんた…」

そうか、腰か。そりゃつらいよな。腰は体の要だ。何をするにも動かさなきゃならないから、そこを痛めると本当にきつい。
うんうん、って頷いてたら、釘崎がこっち見てるのに気付いた。…この間の寝不足の時と同じ顔で。

「ん?…なに?」

なにじゃないわよ、って凄く不機嫌な声で言って、釘崎は自分の席に座った。
釘崎が何を伝えたいのか解らない。助けを求めて伏黒を見たけど、伏黒も解ってなさそうな顔をしてる。二人で頭上にハテナを浮かべて突っ立ってたら、珍しく始業より早い時間に現れた五条先生に、何やってんのって言われた。








「ねぇ、熱でもあるの?」

明らかに顔が赤い伏黒に、釘崎はそう言うだろうなぁと思ったら案の定。
風邪を引いてしまった伏黒は結構な高熱だが、休め休まないの問答を暫くした後、そのあまりの強情さに俺の方が折れた。目に余る様なら無理矢理お姫様抱っこして帰るからなと、半ば脅しのつもりで迫ったのに、問題ないと一蹴され今に至る。

「何でも、ねぇ…」

症状としては、熱と、喉をやられているから声がかさついている事。今の声だってどうにか振り絞った感じで、いつもの凛とした声とは全く違う。
明らかに弱っていても強くあろうとする伏黒はかっこいいとは思うけど、少しくらい頼ってくれたっていいのに。そんなに俺は頼りないだろうか。何か自分が情けなくなってきて、はぁぁ、と溜め息を吐いてしまった。

「虎杖ィ!!!」
「!?」

釘崎の声が教室に響いた。窓ガラスががたがた揺れる。
え?これ女子の声なの?

「あんたら二人の事だからって黙ってたけど、限界あるわよ!?」
「へ!?え!?なに!!??」

でかい足音を立てて俺の方へ向かって来る釘崎は、何て言うかその、鬼の形相だ。眼前に迫ったと思ったら胸ぐらを掴まれて引っ張られる。
何か怒ってる。何で?限界ってなに?

「釘崎?」
「おい、釘崎…」


「寝不足になるまでヤったり腰痛めるまでヤったり熱出して声出なくなるまでヤったり!!あんた伏黒のこと労る気あんの!!??」


ビリビリ、鼓膜が破れるかと思うくらいの大声で。
俺と伏黒は完全に動きを止めた。
遠くで五条先生が爆笑してるのが聞こえた。











…っていう、伏黒くんの体調不良は全部昨日の夜の虎杖くんの無体の所為と思ってる、伏黒くんに優しい野薔薇ちゃんは阿呆でかわいいと思うっていうはなし。

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