生存確認
虎伏(呪術廻戦)
2018/10/26
02:50
致していますのでR18
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伏黒は俺を拒絶しない。
どんなに不本意な事でも。
どんなに恥ずかしい事でも。
傷付けるつもりじゃないのに、結果的に痛い思いをさせてしまう事でも。
「伏黒、お尻上げて」
「……、っ、ぅ」
学びの場である学校。その学校に通う為に住む寮。俺達が生活するのはまさにそこで、つまりここでの生活は学校の為の生活だ。
だというのに、俺達は学校生活に全く必要じゃない行為に、暇さえあれば耽ってる。
生徒数が極端に少ないにも関わらず、寮の部屋は五条先生の計らいで隣同士。俺達の他には、周辺に人のいる部屋はない。健康な体を持つ俺達高校生男子にこんな好条件の物件を与えたら、夜は毎日そうなってしまう。必然だ。これは五条先生が悪いと俺は思う。
俺が伏黒の部屋を訪ねる。伏黒は暫く沈黙して、それでも鍵を開ける。またかよって言うけど、鍵を開けない日はなかった。
伏黒エッチしたい、ってストレートに言う。物凄く嫌そうな顔をして、また暫くの沈黙。嫌だとか帰れとか言われれば、いつだって食い下がる事無く従うつもり。なのに伏黒は嫌そうな顔のまま、無言で部屋の奥へと歩いて行くんだ。
好きだって告白したのは俺の方。長い睫毛に囲まれた伏黒の、綺麗な水みたいな色の目がこれでもかってくらいおっきく開いて、何秒か体全体の動きが止まった。
反応が全然無かったから、もう1回好きだって言った。伏黒が好きだ、伏黒に俺を好きになって欲しい、もしもう俺の事を好きになってくれているなら恋人になりたいって。
今度は直ぐ反応した。ぎゅって眉根を寄せて、下を向いて、唇噛み締めてるのが見えた。あぁこれは駄目かな、好きじゃない好きにならない気持ち悪い、そう言われるかなと思った。
でも違った。顔を上げた伏黒は、能面みたいな顔をして、解ったって言った。俺もオマエが好きだって。そう言ってくれた。
無表情だけど、伏黒が嘘を言ってるんじゃないって解ったから、…そう思いたかっただけかも知れないけど、兎に角俺は嬉しかったんだ。伏黒が俺を好きだって言ってくれたから。俺と恋人になるって言ってくれたから。
初めて手を繋いだのも、初めてキスしたのも、俺がしたいって言ったから。伏黒は、俺が求めれば嫌だとは言わないけど、一度だって自分から何かをしたいと言ってくれた事は無かった。
それがほんの少しだけ寂しいなと思ってはいた。いたけど、でも、伏黒が俺の望みを受け入れてくれる事が嬉しくて幸せで、今はこれでいいやと流してた。
いつか、伏黒もわがまま言ってくれるかなって。あれがしたいこれがしたい、これは嫌だそれはやめろって。遠慮とか無しに、本当に思ってる事全部ぶちまけてくれる様になるかなって。俺みたいに。
そして、健康な高校生の俺は、我慢が出来なくなった。伏黒にいやらしい意味で触りたくなって、そういう行為に対するお伺いを立てた。
一応、明日学校は休み、お互いに任務の予定が無い事は確認済み、外的要因で断られる事は無いって状況で。断られるなら伏黒自身の心の問題だけが理由になる、そんな状況で。
伏黒にエッチな事がしたいです、してもいいですか。ムードを作るなんて器用な真似、童貞の俺に出来る訳ないって解ってたから、どストレートに訊いてみた。伏黒を自室に招いて、ベッドの上に諸々の道具を並べた状態を見て貰って、一応準備はしてありますとアピールして。
勿論無理強いはしない。嫌なら嫌でいいし、万が一嫌じゃなくても心の準備がってんならそれが整うまで待つし。硬い床に正座してしどろもどろになりながらそんな事を話してたら、伏黒が、膝の上で握ってた拳に手を重ねて来て。
解ったって。
好きだって告白した時と同じ返事をしてくれた。
そこからは、はっきり言ってあんまり記憶が無い。無我夢中で伏黒の全身をまさぐって、昂る気持ちのままに目の前の穴に潜り込んだ、と思う。
断片的な記憶の中に、真っ青の伏黒と、真っ赤な伏黒、涙でほっぺを濡らした伏黒がいっぱいいて。視覚の記憶はそればっかりで、感覚の記憶は、兎に角気持ち良くて幸せだった事ばっかり。でもそれが俺だけだってのは、朝目が覚めてすぐ気付いた。
伏黒が気持ち良かった訳無い。初めてなんて女の子だって痛いらしいのに、男が痛くない訳無いんだ。入れる所じゃない所に、多分ろくに馴らしもせずに入れてしまったんだから。
隣に横たわったまま、動かない目覚めない伏黒を見て、幸福感と罪悪感。疲れてるよな、お尻痛いよな。お尻だけじゃなくて全身痛いかも知れない。俺の所為だ。ごめん。俺だけ幸せになって、ごめん。
大事にしたいと思ってて、大事に出来ると思ってて、大事に出来なかった自分が嫌で。
絶対に痛い筈なのに、痛いって、伏黒が言わなかった事に気付いて。
悔しかった。
もうしないって言われるかも知れない。それも仕方ないって覚悟した。
朝っていうより昼に近い時間になって漸く目覚めた伏黒に、おはようの挨拶と同時に謝罪を告げた。痛むなら家入先生の所行こうって言ったら、物凄く冷たい目で見られて、物凄く冷たい声で馬鹿言ってんじゃねぇって言われた。後々考えて、確かに馬鹿な発言だったと思った。
オマエがしたいなら構わないと、本当に小さな声で。
次こそは、大切に。心に誓った。大好きな伏黒を苦しめたくない、だから大切に大切に、たくさん気持ち良くさせてあげたい。
ありがとう伏黒。そう言ってキスしたら、朝から恥ずかしい奴って言われたけど、もう昼だよって言ったら論点そこじゃねぇって。照れ隠しだったんだと思う。
2回目のお誘いも。
3回目のお誘いも。
伏黒は断らなかった。
多分、初めての時よりずっと優しく出来た。
じっくり時間をかけて、たっぷり濡らして、伏黒が自力で脚を持ち上げられなくなるくらい力抜けるまで。
それでも、最初から最後まで全然痛まないなんて有り得ない。有り得ない筈なのに、伏黒は、痛いって言わなかった。2回目も3回目も、ほんの1回だって。
ここら辺で、何か変だなって思う。
俺、伏黒に、嫌だとかやめろとか言われた事ない。
エッチ中だけじゃなくて、普段から。伏黒の性格考えたら、人のいそうな所で手ぇ繋ぐのとか嫌がりそうなのに。
あれがしたい。いいぞ。
それやろうよ。解った。
これしてもいい?好きにしろよ。
俺と伏黒の会話はこればっかりだ。何で気付かなかったんだろう。
伏黒は俺を拒絶しない。
これは喜ばしい事じゃない。
伏黒が俺を拒絶しない理由はきっと、愛とか恋とかじゃないからだ。
「恥ずかしいよな、伏黒。こういう事するの、いや?」
「…、……じゃ、ない、…」
「……そ。じゃあ、ほら、次どうすんだっけ」
3回目のエッチの後に気付いてしまった事実。それから俺は、伏黒が嫌がりそうな事ばかりやらせる様になった。
俺の目の前で、ひとりでしてみて。
自分でお尻いじってみて。
玩具使いたいなぁ、伏黒もそーでしょ?
その度に伏黒は、固まって、嫌そうな顔して、それでも従う。最初の頃は、告白した時みたいな無表情だったけど、何度もやってるうちに表情に変化が出たのはきっといい兆しだ。俺が何を考えてこういう行動をしてるのか、多分伏黒も気付いてるんだと思う。
今だってそうだ。
俯せになって腰だけ高く上げて、俺の顔のすぐ前にお尻の穴がある様な体勢にさせて。それだけで顔を真っ赤にして物凄く恥ずかしそうな伏黒を、もっと追い込む。
伏黒の両手が尻たぶを掴んで、両側に引っ張る。ひくひく震えてる、これから俺が入る小さい穴が、少しだけ拡がって中が見える。
あぁ、いやらしいなぁ。何だかんだ何回もエッチはしてるから、流石にもう痛みは無いみたい。乱暴にするなら話は別だけど、わざとそういう風にする気はないから。そういう意味で追い込むのは違う。
「伏黒、なめていい?」
「ひ、っ!」
内側が真っ赤に充血してる。ふっ、て息を吹き掛けたら、びっくりしたのか手の力が緩んで、穴が閉じてしまった。駄目でしょって叱るみたいに、伏黒の手に手を乗せると、もう一度穴を拡げてくれた。
…うん、いい子。従順。して欲しい反応はこれじゃなかった。
顔を近付けて、まずは穴を拡げてる伏黒の指を舐める。びくって跳ねた指。驚いただろうけど、今度は離さなかった。
印を結んで式神を呼び出す伏黒の手。もしこの手から指1本でも欠けたら、きっと今まで呼び出せてた式神が呼び出せなくなる。俺の中には宿儺がいて、突然表に出てこの指を何本か食い千切るかも知れない。宿儺じゃなく俺が、衝動のままにそれをするかも知れない。頭悪い俺でさえそんな事を考えるのに、頭良い伏黒が考えない訳無い。それなのに伏黒は、舌の感触に震えるだけ。
なぁ。
こわくないの?
いやだって、言っていいよ。なぁ。伏黒。
「い、いたど、り」
「ん…?どした、伏黒」
苦しい体勢で声を出すから、凄く苦しそうな声が出てる。苦しくて、恥ずかしくて、怖くて。言うかな。言ってくれる?嫌だやめろって。
「……、っ、…はやく…」
「………」
あぁ、今回も駄目だった。続きを促す言葉。拒絶じゃない。
落胆っていうのとは、ちょっと違うかも知れない。がっくりきてるけど、結局拒絶されないのは純粋に嬉しいと思ってしまう。求められてる気になる。多分、求めてるから早くって言ってる訳じゃないのに。
「あ、ン…っ」
ぱくぱくしてる小さな穴に、唇で触れる。ほぼ毎日してるから、今日最初に触った今も結構柔らかく解れてる。だからっていきなり突っ込みはしない。好きな人に、わざわざ苦痛を与えたい訳がない。
お尻の穴だ。普通に生きてたら、自分だってそうそう触る必要の無いところ。そんな所を同性に自分から見せ付けて、キスされて、舐められてる。抵抗が無い筈ない。ぶっちゃけ俺だったら結構嫌だ。伏黒がしたいって言ったら、…考えるけど。
にゅるにゅるっていやらしい音が、自分のお尻から聞こえるなんて、嫌じゃないの?恥ずかしくないの?なぁ伏黒。何で抵抗しないの。何で何も言わないの。
どんどんエッチになってく伏黒の体はとっても魅力的で、それを作ってるのが間違いなく俺なんだって思うと滅茶苦茶嬉しいけど、俺達2人の完全な同意の上でやってる事じゃないのも解ってるから。
なんだかむなしい。
それを言葉にしたら伏黒がどういう顔するか、解っちゃうから、言えないけど。
「な、今日はローション使わないでしてみよっか」
「……」
「使わなくても大丈夫なくらいなめてあげるから、心配すんな。痛くはしないって約束する」
「わかっ、…た」
それ用に作られた製品と、ただの唾液が、同じ役割を果たせる訳無いのに。そりゃ、痛い思いさせない様に本気で頑張るけど、でも絶対ローション使った時よりは痛いのに。
なぁ。なんで何でも解ったって言うの。
ふざけんな馬鹿って、言ってよ。
「ぐ、ぅ、……っあぁぁっ!」
負い目。
引け目。
俺が初めて伏黒と同じベッドで朝を迎えた時に抱えてた罪悪感より、もっとずっと、大きくて重くて暗い気持ち。
自分の所為で、俺を呪術の世界に引き摺り込んだ。
自分の所為で、俺が死んだ。
自分が俺の全てを歪めた。
伏黒の心の真ん中に、どうやったって消せない気持ちが沈んでる。
「伏黒、痛い…?ごめんな、痛くしてごめん」
「っいた、くな、…っ、だいじょうぶ、だ、ぁ…っから、とめる…、な」
「…ふしぐろ…っ!」
シーツに強く皺が寄る。多分、シーツを掴んでいなければ掌に爪が穴を空けてるだろう。血管も骨もビッキビキに浮かんだ汗まみれの手の甲を包むみたいに、上から手を重ねて握る。そうしたら、ほんの少しだけだけど、伏黒の手から力が抜ける。
俺が触る事で伏黒が安心してくれたんだって思ったら、嬉しくて涙が出た。伏黒は俺なんかよりずっと泣きたいだろうし、実際滅茶苦茶泣いてる。俺も伏黒も顔がぐちゃぐちゃだ。伏黒は顔ぐちゃぐちゃでもきれいだけど、多分俺はひどい顔してるんだろうな。
「ン、あ、あっ!あっ、あぅ…、んん」
段々伏黒の声から、苦痛っぽい音が消えてく。気持ちいいって、それだけを伝えてくれる甘い声に変わってく。どろどろにとろけて、理性がちょっとずつ剥がれてく。
それでも、だ。本当に無くなってほしいものは、どれだけとろけたって残ってる。嫌だもやめろも絶対に、言ってはくれない。
理性じゃない思考じゃない、どこまでも本能的なもの。
俺を拒絶しない。俺を否定しない。俺に逆らわない。
伏黒恵という人間の真ん中に根付いてしまった、呪いだ。
なぁ伏黒。俺はどうすればいいのかな。
俺は、オマエと対等になりたかった。過去形じゃない。対等になりたい。
今の俺達はどう考えたって対等じゃない。恋人同士なのに。そんなのは嫌だよ。
確かに、俺はオマエと出逢ったから呪術師になった。
オマエが宿儺に殺されると思ったから、自分が死ぬ事を選んだ。
伏黒が切っ掛けだ。俺が自分の道を決める理由は、伏黒だった。
切っ掛けであって理由である、でも原因じゃない。でも伏黒はそうは思ってくれない。
オマエはいい奴だから、どうしたって自分の所為でって考えてしまうんだ。
オマエの心に、解けない呪いを掛けたのは、俺だ。
「伏黒…、伏黒、聞いて。なぁ、聞いて」
「…?いた、どり、?」
「俺、俺さ。オマエの事好き。ほんと大好き。俺が、オマエと同じくらい強くなったら、そしたらさ、オマエ」
「……ッ、ん…」
俺が、伏黒と並べるくらい強くなれたら。
俺自身の強さで、この世界を生きていける様になれたら。
そしたら、伏黒は、俺を対等だと思ってくれるだろうか。
負い目も引け目も罪悪感も必要無い、ここが俺の本来生きる世界だったって、認めてくれるだろうか。
「俺の事ちゃんと、見てくれるのかな」
強くなりたい。
伏黒の隣に立てる様に。
伏黒に背中を預けて貰える様に。
同じ場所に立って、呪術師も宿儺も関係無い、ひとりの人間としての俺を、真っ直ぐに見て欲しい。
そうしたらやっと、ちゃんと、俺達は恋人同士になれる気がするから。
「見てる、だろ…っ…」
「……そーだな、ごめん」
ごめんな、伏黒。呪ってごめん。
オマエを呪った俺が、オマエを好きになってごめん。
諦められなくて、ごめん。
諦めない。絶対に。
伏黒と対等になる。伏黒に、嫌だって言わせてみせる。
「強くなるよ。見ててな、伏黒」
潰してしまうかも知れないってくらいに力を込めて、伏黒の手を握る。
痛ぇよバカって、言って欲しかった。
今はまだ、言ってくれなかった。
当然だ。
俺は、まだまだ弱い。
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