生存確認
 エレリ♀(進撃の巨人)
 2017/4/27 03:24



「えー?じゃあエレンくんはライナーくん狙いなの?」
「あはっ!いーよー応援しちゃう!」

「ホント?よーし頑張っちゃおっかな!」

男4女4でテーブルを囲み、二度の席替えを経て、俺の両脇にいる女子と両手を繋いでにっこり笑う。
右手は茶髪ふわふわガーリー系、左手は黒髪ストレートサバサバ系。胸はどっちも標準サイズ。顔は、…まぁB+って感じかな。化粧落としたらどうだか解ったもんじゃないけど。

「やっぱライナーくんみたいなゴリゴリ系が好きなの?」
「やっぱって言い方はちょっと、偏見強めじゃない?ワタシはいいけど、他のそういう人にはあんま言わない方がいいよ」
「でもさぁ、まんまって言うか。オネェの人ってそういう人好きって、ほらタレントとかそうじゃん」
「ねー」

少し酒が入って、上気した頬は多分チークだけの所為じゃない。楽しそうに笑うその表情からは警戒心みたいなものは読み取れなくて、オレという存在をちゃんと受け入れてくれているんだと解る。
ライナーってのは、一緒に合コンに参加した男側の友達だ。ソファ席に座ってるオレ達の向かいにいて、隣に座った小柄な金髪の女の子に必死に話し掛けてる。確かクリスタって名乗った子だ。顔はAA+、めちゃくちゃかわいい。でもそのクリスタを挟んで隣にいる女、確かユミルっていったか、そばかす茶髪女にちょいちょい邪魔されてる。ユミルはスタイルは相当っぽいけど、そばかすときつい目付きの所為で総合評価はB。
…話が逸れた。

ライナーくん狙いなの、と訊かれた理由は単純。オレことエレンは、世に言うオネェだとカミングアウトしたからだ。

男なのに男が好き。
一昔前だったらこんなの気持ち悪いと一蹴されただろうが、今の時代周りの反応はこんなもんだ。否定はされない、どころか協力するよーなんて言ってくれる人が沢山いる。実際自分がターゲットにされたらそりゃ逃げるんだろうけど、他人事であればどうでもいいって事だ。面白いからそれでいい。
特に女は優しい。自分はその異常な愛のターゲットには絶対にならないという安心感から生まれる優しさだろう。あいつが好きなんだ、と言えば、女友達の相談に乗る様に優しく接してくれる。
今回だってそうだ。

「ライナーとは、そんな長い付き合いって訳でもないんだけどね。大学入ってからだし。でも、何て言うかなこう、…強烈だったんだよね…」
「えーなになに、意味深」
「何か解るなぁ、時間とか関係無いよねー」

クリスタと話すライナーを見詰めてたオレに、ねぇエレンくんってもしかして、なんて話を振られて。まぁ勿論冗談のつもりだったんだろうけど。どうせ今夜しか関わらない女の子だし話してもいいやと思って。
合コンなんて場に居るのに男狙いだなんて、何なんだこいつって思われそうなものだけど、女の子って意外とそういう反応しない子多い。所謂腐女子ってやつじゃなくても、女は皆潜在的にホモが好きなんだ。…って言うと語弊が有るけど、少なくとも嫌いでは無いんだ。

「ライナーってね、幼馴染みがいるんだ。大切な。ずっと一緒に育って、おんなじ目標持ってて、今日はいないけど同じ大学でさ。ワタシとも友達なんだけど、穏やかでいい奴で。…勝てないなぁって、思うんだぁ」
「エレンくんかっこいいじゃん、その人そんなにイケメンなの?」
「あ、エレンくんかっこいいとか言われても嬉しくないのかな」
「ううん、有難う、嬉しい。…そうだなぁ、所謂イケメン…というか、そういうのじゃないと思うんだけど。面長で、背も高くて、優しそうな顔してるの」
「私だったら面長よりイケメンの方がいいけどなぁ、エレンくんみたいな」
「ねー」

オレの話からどんな顔を想像してるのかは知らないが、実際ライナーと幼馴染みのベルトルトの絆は相当強固なものだ。ほんの何年か前に知り合ったオレなんかが引き離せる様なもんじゃない。
それはそれで、別に良いんだ。あいつらを引き離したいと思ってる訳じゃない。オレにはオレの目標と、やり方があるから。

「イケメン、かなぁ、ワタシ。…ライナー、クリスタの事気に入ってるみたいだし、かわいい女の子だったら、もしかしたら幼馴染みにも勝てたのかも知れないとか思うと…、何か、つらいな」
「…エレンくん…」

ふと、クリスタの隣のユミルと目が合った。ずっとクリスタとライナーの邪魔をしていたユミルが、こっちに視線を遣ったのは初めてだ。
暫く無言でオレをじっと見て、特に何も言わずに、またクリスタに話し掛け始める。ライナーがそれこそ邪魔そうに顔をしかめたが、全く気にしている風では無い。

「…ねぇ、この後時間って有る?」

右手をきゅっと握って、茶髪ふわふわにこっそり耳打ちする。こっちの方が、左手の黒髪ストレートよりオレに興味を持ってくれてそうだった。

「うん、平気だよ」
「相談、とか、乗って貰っていいかな…」

苦しい、つらい、助けて、って言外に滲ませて、潤んだ瞳で上目遣い。
勿論だよって言ってくれる優しさが眩しくて嬉しくて、有難うって小さく言ってまたきゅっと手を握った。
柔らかくてあったかくて小さい、女の子の手。ライナーのと全然違うそれに、心が癒されていくのを感じた。
























気を失った茶髪ふわふわを見下ろして、ひとつ、溜め息。やっぱり化粧落としたらレベルも落ちる。ぶっちゃけC-ってとこだな。胸はほぼパットだったし、よがり声も別にそそられなかった。

「馬鹿だよなぁ、マジで」

オネェなんてそうほいほいいる訳が無いのに、テレビでオネェタレントが増えてるからって現実と混同してる馬鹿が多いこと。芸能界なんて特殊な世界で特殊な性癖の人が増えるのはある種必然だろうが、一般人が生きる一般社会ではまだまだ相当なマイノリティだという事が解っていない。
オレだってそうだ。オレはオネェなんかじゃない。女の柔らかい体が好きな、普通の年頃の男の子だ。
オネェってキャラはとても都合が良い。女に警戒心を抱かれる事無く、女の懐に入り込める。いきなり信じる馬鹿な女ばかりでは無いだろうが、そこはオレの顔も武器のひとつだった。
不細工なオネェより綺麗なオネェの方が受け入れられ易い。何の手入れもせずにこの顔であるオレだが、オネェであるが故に美容に気を遣って綺麗になっている、と信じさせるのが容易い。この顔に産んでくれた母さんに感謝だ。
オネェキャラはオレの、女を手軽に抱く為の手段に過ぎない。ライナーもそれを知ってる。ライナーが狙わない女を適当に抱く為に使うと約束してるから、ああしてライナー狙いだと言う事を許されてる。

「黒髪の方が当たりだったかもなぁ…」

選ばなかった方の顔を思い出してみる。とは言ってもこっちの茶髪と同じ、メイクで作った顔だから、汗でどろどろになったら化け物みたいになるだけだろうけど。
あっちの方がまだ肉感的だったかも知れない。こいつがまさか、標準サイズにする為に何枚かパット入れてる貧乳だなんて思わなかった。はっきり言ってハズレだ。
何だかんだ言ってイケメンに言い寄られるのは嬉しいと見える。相談と称して店を変え更に飲ませて、同性同士のスキンシップみたいな軽いボディタッチをエスカレートさせていって、スカートの中に手を入れる頃には、ねぇホテル行こ、なんてあっちから誘って来た。
最初から女狙いとして迫っても抱けただろうけど、結果付き合いたいとか言われるのは面倒だし嫌だ。オネェなのに酔って訳解んなくなって抱いてしまった、みたいな感じにして二度と関わらないのが気楽でいい。

オレはただ後腐れなく女を抱きたいだけ。手間の掛かる段階を踏みたくは無いし、誰かと付き合いたい訳でもない。
そういう面倒を取っ払うのに、オネェを装うってのが最適なだけだ。

とりあえず今夜はもう寝る。大人しく寝て朝になったら、何も覚えてないけどもしかしてワタシ…みたいな反応をしてやればいい。
っていうかそもそもライナーに抱かれたいなんて一言も言ってないし、いざとなればライナーを抱いてる夢を見てたとか言ってやればいい。きっとドン引きしてくれるだろう。

ライナーはクリスタをモノに出来ただろうか。…多分駄目だっただろうな。
ユミルの眼は、あれはきっと、オレが自分と同類かどうかを見極めてたんだ。そして違うと確信した。ユミルは、クリスタが本気で好きなんだろう。まぁオレには関係の無い話だ。
ライナーがクリスタをモノに出来てしまったら、ライナーが合コンに参加しなくなってしまう。ライナー狙いのオネェキャラが使えなくなるのは困る。ユミルグッジョブ、と心から言いたい。ライナーには悪いが。
オレの性生活の充実の為に、まだまだ協力関係を保って行きたい。これからもよろしくお願いしますライナーさん、と適当な壁に向かって頭を下げて、茶髪ふわふわの横に寝転んだ。























「NN商事?」
「ああ。今度は歳上だ」

茶髪ふわふわをお持ち帰りした合コンから1週間。付き合いたいとか言い出しそうな雰囲気を醸し出す女をオネェキャラで上手いこと引き下がらせて、連絡先の交換も持ち掛けさせずに、何の後腐れもなくカットアウト。そろそろ次の狩りがしたいなと考えていた頃合いに、ライナーから合コンのお誘いだ。
やっぱりクリスタ争奪戦はユミルの圧勝だったらしく、こっちも連絡先を交換させて貰う事無くカットアウトされたらしい。それがあまりにもショックだったのか、この短い期間にもう一度、しかも相手は超大手商社のOLだそうな。随分と意欲的だ。

「NN商事のOLねぇ。オレ達みたいなガキなんてお呼びじゃないんじゃねぇの?」
「それがな、エレン。もう自分でマンション買ったりしてる勝ち組OL様方だ。同年代じゃなくて若いイケメンを飼いたいお姉さま達のグループらしいぞ」
「…すっげぇ好条件だな。騙されてね?」
「ピクシス学長の口利きだ。安心しろ」
「おぉ、そりゃマジなやつだ。…しっかしお前ホント顔広いよな」

男が惚れそうな程男前な男ライナーは、それはもう顔が広い。今までも、歳下から歳上まで幅広い層との合コンをオレ達に提供してくれた。とは言え、今回程歳が離れてそうな相手は初めてだが、口利きしてくれたのが変人と名高い学長であれば納得だ。
イケメンを飼いたい大人のお姉さまね。ガチムチライナーに一途な片想い中のわんこ系イケメンオネェであるエレンくんは、一夜の愛玩動物として存分に可愛がって貰えそうだ。

「今回メンバーどうするんだよ。ベルトルト来るのか?」
「いや、あいつは今卒論に忙殺されてるらしくて無理だ」
「何だよ今回もか。あいつがいた方が、ライナーを切なく見つめるエレンくんがやり易いんだけどな」
「あいつまで巻き込むなよ。アニに誤解されたら流石に不憫だ」
「まぁなぁ。傍から見れば何の勝機も無さそうだけど、本人が真剣に好きなんだし邪魔しちゃ悪いよな」
「言ってやるな…」

実際に女達の目の前でライナーとベルトルトの遣り取りを見せ付けられれば、悲しい瞳で見つめるエレンくんがリアルに表現出来るので楽なんだけど。そんな事やらなくても狩りの成功率はほぼ100だし、必要では無いからまぁ別にいいか。オレの狩りに協力なんかさせるより卒論の方が絶対に大切だし、何よりベルトルトには好きな女の子がいる。確かに、男同士の痴情の縺れに巻き込まれているらしいなんて、何かの間違いが起こってその子の耳に入ったら哀れだ。

「とりあえずお前と、ジャンには声を掛けた。あと1人はコニーかマルコかと思ってるんだが」
「オネェとガチムチと馬面キザ野郎か…。バカでもマジメくんでもバランスは良いけどな」
「どうする?」
「マルコかな。コニーは酔ったらオレのオネェキャラにマジツッコミして来そうだから危険だと思う」
「あぁ…そうだな、そうかも知れん」
「断られたらマルロに声掛けてみてくれ。コニーはその後くらいで」

バカは危険だ。作戦の誤認が多々ある。普段ならそんなに気にしないが、酔って判断力が鈍ると尚更危ない。オネェを装っているとバレてしまえば、オレだけじゃなく合コンを企画したライナー、ひいては口利きしてくれた学長にも迷惑が掛かる。それは頂けない。
誰にも迷惑を掛けず、不信感を抱かせず、一夜の快楽だけをさらっと享受して何も無かった事にする。それがオレのやり方だ。そこにバカを投入するとどうなるか解らない。
コニーには悪いが戦力外通告だ。オレが参加しない時に頑張ってくれ。

「お姉さまって、どのくらい歳上になるんだ?」
「30前後だそうだ」
「30前後でもうマンション持ってるのか。流石NN商事」
「夢が膨らむな」
「あぁ。オレ達もそうなりたいもんだ」

今回もオレはオネェキャラに徹して、大人のお姉さま方の熟れたボディを堪能するだけ。決して飼われたい願望がある訳じゃない。ライナーだってそうだろう。
楽しければそれでいい。恋愛なんてマジでするもんじゃない。少なくとも、まだ若いこの歳では。

「時間と場所決まったら連絡くれ。あ、あとメンバーな」
「おう。じゃあな」

マルコもマルロもクソ真面目だが、ちゃんと女に興味がある奴だ。お姉さま趣味かどうかは解らないが、まぁどっちかはOKするだろう。オレのやる事は気にするなと言えば、色々察してくれる筈だ。
向こうさんはどんな人が来るんだろう。この前食べ損ねたから、今度は黒髪美人の巨乳とかいいな。大人のお姉さまなんて特に後腐れなく別れられるだろうから、今回は本当に楽な狩りになりそうで、今から楽しみで仕方無い。

夕方ライナーから連絡があり、日時は3日後の夜8時、店は駅前のこじゃれたレストラン、残りのメンバーはマルコだと知らされた。
その時用のピンクのブーメランを、フローラルな香りの柔軟剤をたっぷり使って洗濯し、誰の目にも付かない室内に干す。
準備は、万全だ。
























「僕はペトラさんかな」
「俺はナナバさんだな」
「俺は…、今回はいい。お前らの良い様に立ち回るぞ」

合コンの料金は男が多めに負担するものだが、今回は何とお姉さま方の奢りだそうで。流石大人の女。この間の、流行りばっかり追い駆けてる頭の悪そうな女子との違いを見せ付けて来やがる。
キュート系ペトラさん、ヅカ系ナナバさん、イロモノ系ハンジさんと、キャラクターもバラエティに富んでいて目を楽しませてくれる。

「エレンは?」

作戦会議ですなんてあからさまな言い方をして、男全員でトイレの為に席を立った。お姉さま達は、じっくり話し合って来てねーなんて笑いながら言ってくれて、年齢差ってすげぇな、と思わされた。
皆それぞれ方向性の違う美人で、誰と遊んでも楽しく過ごせそう。そんな中でオレの目を引いたのは、一際小柄な女性だった。

「リヴァイさんだな」

リヴァイだ、と低い声で名乗った女性。
襟足すっきりの黒髪ショート、切れ長の瞳は綺麗なブルーグレーで、クールな眼差しが堪らない。ああいう冷たい感じの人程、人情に厚かったりする。合コンなんか興味無さそうなテンションなのにここに居るって事は、多分ペトラさん辺りに泣き付かれて人数合わせで参加したとかだろう。そういう人の方が、オレの目的に付き合わせ易い。
そして何より。前回の茶髪ふわふわを経て今回は絶対だと決めた項目、そう巨乳である事。リヴァイさん、身長は相当小さいだろうけど胸すっごいでかい。やばいあれ挟んだらオレの埋もれちゃうかも知れない。是非挟みたい。谷間にザーメン溜めさせて、子猫がミルク飲むみたいにちょろちょろって舐めたりさせたら、すげぇエロい。見てるだけで妄想が膨らむ素晴らしい巨乳だ。
クールな美貌と落ち着いた態度、そして特上のおっぱい。文句無しのSS+。

「あぁ、めっちゃ胸デカイもんな」
「誰もカブって無いし、問題無いね」
「よっし。じゃあライナー、ハンジさんと適当に絡んでくれ。オレはそれ見ながらいつものやる」
「解った。じゃあ戻るぞ」


作戦会議を終えて席に戻る。と、お姉さま方は席を移動して、男女が交互に座る形になってた。準備が早い。

「さー、誰がどこに座るの?私の研究成果をたっぷり聞きたいのは誰かなー?」
「お手柔らかに頼みます、ハンジさん」
「お、ライナー、君かぁ。いいよぉ、優しく解り易くたーっぷり話してあげる」
「はは…、よろしく」

眼鏡の奥でにんまり笑ったハンジさんの隣にライナーが座って、オレ達に目配せする。作戦開始だ。
オレはソファの端っこに座ったリヴァイさんの隣をゲットして、正面でハンジさんと話すライナーを視界に収めた。あとはこのままぼんやりしつつ酒を煽って、どうした、ってリヴァイさんが訊いてくれるのを待つ。
ただ、今までの流れを見るに、リヴァイさんは口数が多い方では無い。先述した様に、合コンに乗り気な訳でも無さそうだ。だからこのまま黙ってれば良いって訳じゃ無いし、ある程度オレに対して親しみを持って貰う所までは行かなければ。
ちら、と、ワイングラスを傾ける横顔を見遣る。綺麗な顔だ。ちっちゃい鼻と薄い唇が凄くかわいい。あの唇から見える舌に舐めて貰いたい。でっかいおっぱいに挟みながら。

「リヴァイさん」
「ん…、何だ」
「リヴァイさんってお幾つなんですか?」
「…それは歳の話か。身長か、それとも胸か」
「えぇー、そんなそんな。…全部、って言ったら答えてくれます?」
「構わない。別に隠す様なもんじゃねぇ。そもそも見れば大体解るだろうしな…」

おおっと、急過ぎたか?あわよくばと考えなかった訳じゃ無いが、まさかいきなりそこに辿り着かれるとは。
だがしかし不快に思われた様子じゃ無く、寧ろちょっと楽しそうに見える。視線の先にはマルコと話してるペトラさんがいて、…後輩が楽しそうなのが嬉しいのかな。優しい人なんだな、この人。

「30歳、152?、G」
「…………」

G、と来たか。これは凄い。相当でかいと思ってたがこうして規格を知ると尚更でかいと思えてしまう。
やばい、涎出そう。軌道修正が必要だ。

「……羨ましいなぁ」
「………」

小さく、聞こえないくらいの声量が重要だ。実際聞こえてなくたって構わない。切なそうな表情で何か言って、そんでライナーを見ればいい。
女性的な特徴について話して、それに性的な反応じゃなく羨望っぽい反応をする。そして想い人(仮)に意味深な視線を遣る。これを何度か繰り返せば、もしかして、って向こうから言って来る。ちょろいもんだ。

「ねぇリヴァイさん、リヴァイさんって男前だって言われません?」
「あ?何でそう思う」
「だって、ほら、ナナバさんもヅカの男役みたいにスマートですけど。リヴァイさんは何かもっとこう、無言で引っ張ってくれそう的な雰囲気有りますよ」
「女らしくなくて悪かったな」
「違いますよー、そういうんじゃなくて。かっこいいなぁって、思うんです。そういう人」

見た目は胸のお陰でとんでもなく女性的なリヴァイさんだけど、ペトラさんに対する優しさとか、ハンジさんに対する適当さとか見ると、性格は結構男っぽいバッサリ系なんだろうなと察する。そういう所をちょっとずつ暴いて、その都度想い人(仮)と重ねる。
女は皆ホモが好き。少なくとも嫌いじゃない。リヴァイさんみたいな冷たい人を装った人情家は、特に親身に話を聞いてくれるだろう。こんなエロいカラダの大人の女、経験が少ない訳は無いし、たった一度酔って寝た若い男なんて引き摺る事無く忘れてくれる。あぁ楽チン。
今夜は何て素晴らしい夜だ。

「そういう人に想われたら、幸せになれますよね。…想われたいです、そういう人に…」
「……エレン」

オレの視線の先が誰なのか察したのか、リヴァイさんが一瞬止まる。そう、そうですよ。ライナーですよ。
ふぅん、みたいな顔をして、ワイングラスを空ける。唇に付いたワインを舐め取る舌の動きが大層素晴らしくて、反応しそうになる下半身を抑えるのに苦労した。

「苦労してるんだな、お前」
























目が覚めたら、何と無く見覚えのある天井がそこにあった。
オレの部屋じゃない。見覚えがあるって事は、ホテルやリヴァイさんの部屋でもない。
…頭痛ぇ。どこだここ。
上半身を起こして周囲を見回す。天井だけじゃなく、内装にも見覚えがあった。

「………ライナーん家…?」

血の気が引くってのはこういう事か。寝起きと二日酔いでぼんやりしてた頭が一気にシャキッとした。
そうだ、ここはライナーの部屋。何度も来た事が有るから間違い無い。
オレが寝てたのはライナーのベッドだ。まさかと思ってライナーを捜したら、毛布を巻き付けて床に転がってるのを見付けた。同じベッドで寝てなかった事にとりあえず安心して、ちゃんと昨日と同じ服を着てる事にもう一度安心して、深呼吸。
思い出せオレ。どうしてこうなった。
リヴァイさんと目眩く官能の一夜を過ごす予定で、その為に色々と働き掛けていた筈なのに。

苦労してるんだな、と哀れむ様な言葉を掛けられて、…そうだ。これは押せばいけると思った。何度か同じパターンを繰り返して興味と同情を引いて、更には冷静な判断力を鈍らせようとリヴァイさんに酒を勧めてオレも飲んだ。どんどん飲んだ。
リヴァイさんの態度がちょっとずつ柔らかくなっていくのが解って、よしよしいい感じ、と手応えを感じたのを覚えてる。
ねぇリヴァイさん、オレ悩みがあるんです。聞いて下さい。そう言った筈だ。
リヴァイさんはペトラさんを見るみたいな優しい瞳でオレを見てくれて、…そうだ。黒髪巨乳ゲット、って心の中で高らかにガッツポーズをした。したんだ。
…それなのに。

「…何でライナー…?」

駄目だ。覚えてない。全然覚えてない。あれからどうなった?
相談という口実で2人になる事は成功したのか?いや失敗している筈が無い。何故ならリヴァイさんはあんなに、優しい瞳でオレを、見てくれていたのだ。
だが現実はこうだ。オレはライナーの家で目を覚まし、リヴァイさんはいない。リヴァイさんと一夜を過ごせていたのなら、少なくとも2人になれていたのなら、ライナーの家になんて来る筈が無い。
つまりだ。

オレは失敗した。
リヴァイさんという、SS+の極上の女を堪能し損ねた。


「……っっぐぅぉぉおあああぁあーーーー!!!!!」


早朝の安アパートに響き渡った、オレの絶叫。転がってたライナーがびくっと巨体を跳ねさせて飛び起き、訳が解らんという顔で、オレを見て絶句していた。

オレはまだ知らない。ジーンズのポケットの中に、小さく折り畳まれた紙が入っている事を。
それに気付くのは、我にかえったライナーに近所迷惑だと拳骨を落とされたオレが、酒くせぇからシャワー貸してくれと言って脱衣所で服を脱いだ時だった。














“今夜一晩機会をくれてやる。死に物狂いでモノにしろ。”
“今後二度と俺達に関わるんじゃねぇぞホモ野郎が。気持ち悪い。”


…気付かなければ良かったと思って、シャワーを浴びながらちょっと泣いた。
リヴァイさんは、ほんとに優しい人だった。
c o m m e n t (0)



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