芥鹿(かいか)

冬の山に老いた一頭の鹿が来た。 
山の頂で鹿は息絶えた。
雪の精がしかばねを優しくつつむ。
静寂しかない冬の山。

どのくらい時間がたったのか、
静寂の向こうから水の音がする。
雨だ。
雨の巫女が来た。
雨雲を連れて、雷を纏って 、嵐と契り、巫女が舞う。
命の舞だ。 

巫女が陶然と息を吹くと、嵐は去り、
白い大きな月が山にのぼった。
月の影の中で鹿が起き上がった。 
鹿が身震いすると、その身が崩れ、
中から真っ白な鹿が生まれた。

新しいいのち
新しい季節。
開花していく。

生きる喜び。
いのちは山をくだる。
野に川に春を告げる。

また生きる。
塵芥になって死ぬその瞬間まで生きてく。

そうして毎年毎年、季節は巡っている。 
もう何万年もずっとそうしてる。