話題:浮気


前々日記の続き的なやつ。長文。


付き合ってる期間が曖昧なのでアレだけど、とりあえずカウントするならあたしとたまが初めてヤッちゃったときからだと思う。

付き合おうって言われたとき、別にお互い好きじゃなかった。たまはめちゃくちゃ好きだった彼女を自分の先輩にとられてやさぐれてたし、あたしはあたしで彼氏とよくわからんことが原因で別れたところだったから引きずってて、傷の舐め合いどころかお互い向き合えてすらいなかった。

寂しいんだろうなってのはすぐにわかったけど、あたしで埋めれるわけないし。あたしもたまといて元カレのこと吹っ切れる気がしなかったから、生産的じゃないよなーって思ってた。

でもたまはすごい執着してきて、弟に泣きついて最終的に付き合うって返事したときも、あたしに指一本触れるなって言ってた。手を繋いだり、肩同士が触れるのも拒否。たまも別に無理矢理どうこうしてこなかったし、弟や男友達からたまは手ぇ出すの早いからって言われてたのもあって、こんな感じで拒否ってたらとっとと他行くだろうって。

ふたりきりでいるとき、隣に座ったりとそれなりに近い距離にいるんだけど、その日あったどうでもいいことばかり話してただけ。たまに公園で缶ビール買って呑んだりしてたけど、ノリでくっついたりも絶対にしなかった。

これって付き合ってるんじゃないよね、別に。
そんなんだから弟も無理矢理引き剥がすこともできなくて、ただ微妙そうな顔をしてあたしやたまに接してた。

付き合ってる感じがないから、こっちから別れるみたいな話にも持ち込めない。害がないから遠ざけれない。なんで? って聞かれてあんたが嫌いって言えるほど嫌いではなかったから。

ちょっとした情があるだけ。それだけだと思ってた。
だからまさかヤっちゃうなんて思ってもみなかったんだな。

好きでもないのに関係もつとかやってらんないなーってどこか人事みたいに思ってて、その一度の行為で赤ちゃんがデキるとか、ね。

好きな男の子供じゃなくてもあたしのお腹で育つ子供は愛おしい。これはあたしの考えだけど、例えば相手がどんな人間だろうと、そいつの遺伝子を我が子に残すことになろうが、自分のお腹に宿ってくれた赤ちゃんを自分が愛せないことはないって思ってた。

まあね、これはあたしの願望でもあった。希望だった。
母親に蔑ろにばかりされていたあたしでも、彼女のお腹で育ってこの世に生を受けたときは少なからず愛情を向けられていたって思いたかったし。

そんなわけで色々あって思い描いていた状況には落ち着かなかったのだけど、なんとか長男出産。その前と直後にたまはやらかしてたけど、どんな状況でも最終的にあたしも、形はどうであれ納得はしたハズだからと自分に言い聞かせてなんでもないフリをした。長男さえいればあとはどうでもいいって思ってたし、それが真実だと思ってもいた。たまに期待してないしそれはお互い様、この状況もなるようになっただけだと彼の不貞を特別責めたりしなかった。あんたが自由にするならあたしもそうするだけだって。

そんなこんなでその熱りも冷めてきた頃、あたしよりも一年ほど遅れて出産した友達と職場が同じになった。
あたしは長男出産数ヶ月後、寝込みを襲われたときに次男を妊娠という「危険日でも狙ってんのか」な展開に疲弊して、とにかくたまを遠ざけ関係はさらに険悪になっていて、次男出産後体調を整え息子ふたりを保育所へ預け就職していたっけ。子供は可愛い。でもたまは子供には優しかったけど夫としては最低でちょくちょく女の子と会っていたりとかね。あたしもなんでこいつといるんだろう、アホなのかなといよいよ冷静に今後のことを考えるようになって。息子ふたりを抱えてシングルでやっていくにも、まずは必要資金を貯めないといけない。そのために年明けに保育所入所の申込みをして春前に入所が決定してすぐに職場を探した。

地元のパチンコ店。パートだけど時給がよくて接客業でも適度に体力仕事もあり自分に合ってると思った。

その友達も同じような理由でそこを選んだらしい。あ、ちなみにその友達、あたしが長男妊娠中にたまと関係を持っちゃった子で、そのあと復縁した元カレさんとの子をシングルで育てていた。

「おんぷ、旅行行かん? 一泊だけでも。近場でええし、子供連れで」

その友達とは高校の卒業旅行を一緒した仲だったし、過去は過去だし、とにかくたまの顔を見るのが億劫で賛成した。

「次男ちゃんがしんどくないとこで、うち運転するから車で行こうか。ベビーシートある?」

「あるよ。車出してくれるなら前行ったとこする?」


行先は京都にした。その日の帰りにふたりでシフトの休みを合わせて申請して、その足で駅前の旅行店で安いところを探してもらってすぐに申込みした。

たまに言えば、好きにすれば、と返事されると思ってたのに「俺も行く」と言い出して、そこで喧嘩になったけどその友達に相談すればさっきの旅行店に電話して大人ひとりを追加してくれた。でも安くしたいなら部屋を大きくするだけにしたいと言われ、ベッドがふたつ、あとは雑魚寝できる畳部屋があるところに変更。子供らとたまをベッドで寝かせてあたしと友達はふたりで畳部屋で休もうということになった。

よく考えたら、たまと友達が顔を合わせるのは、ふたりが関係をもったとき以来かもしれない。
でもさすがにお互い環境が変わってるんだからと特になにも思わず当日を迎えた。

夜はホテルの食堂で蟹鍋だったかな。友達は「うちはシングルやから家族旅行ってゆうてもこの子とふたりきりやし、今日おんぷらと一緒で楽しい」と笑ってた。たまはそれについてはなにも言わなかったけど、友達の子供がうちの息子らとはしゃいでるのを見てちょっと穏やかな顔をしてた。ふーん、やっぱ子供好きなのかな。そう思うもたまとあまり話さないで当初の目的だった友達との時間を楽しむことを優先してた。


「なあ、おんぷ。ちびら寝かしたら俺呑むけど」
「好きにどうぞー」
「え、おんぷも呑めば? 次男ちゃんミルクやろ?」
「でもあんた呑めんし」
「たまくん、お酒抜けるの早い? うち潰れたら代わりに明日運転してくれる?」
「えーよ」
「じゃあお酒買ってきてくれる? その間におんぷのこと口説いとくし!」
「なんやそれ。おまえらチューハイか?」


そんな会話があったと思う。
あたしはなぜかたまの顔を見れなかった。友達はたまが出かけたあと「おんぷとたまくん、うまくいってるようでよかった。ふたりめもおるし、ほんま羨ましい」と苦笑いしてた。そうではないと言ったけど、友達には嫌味に聞こえたらしい。「うちも相手さえおれば子供なんにんでも欲しい」と言ってた。

たまがお酒を買ってきてくれた頃、あたしは息子ふたりの寝顔を眺めてた。

「ほら、呑めば。おまえ炭酸苦手やから梅酒にしたぞ」
「そっか」

炭酸苦手とかいつ言ったっけ。あたしは梅酒の缶片手に畳部屋で寛ぎ始めたたまを見る。たまはコンビニの袋から数本の缶チューハイを友達に手渡してた。あたしの梅酒もいくつかあった。自分用に買ったらしい缶ビールが一番多く、ほんまに明日大丈夫かと心配になった。
つーかあたしらと一緒に呑むつもりかよ。


「おんぷ、横こいよ」


あたしは黙って友達の隣に座った。正面からたまを睨みつけて梅酒を一気呑みしたのは覚えてる。そこからの記憶は曖昧だった。

不意に誰かの泣き声がした。テーブルに突っ伏してたあたしは飛び上がり子供らを寝かせているベッドの方へ行くと、友達の子供がぐずっていた。うちの息子らは初めての旅行だというのにいつも通り眠っていた。

「どした? ママのとこ行く?」

あたしは友達の子供の隣に横になって背中をさすってあげてた。そのうちまたすぐに寝入ってくれたのでわざわざ友達を起こすこともないとしばらくそのままでいた。


生々しいので追記で。