【前回までのあらすじ】
ラブーフ姉妹と邂逅したビアンカ達を襲うレベッカ。
しかし、すでにビアンカのパワーはレベッカを超越していた。
改めてアンジェラの許へ行くビアンカだが、その身体に異変が起き始める…
「Mrsフィアー…!?」
ようやく身体が回復してきたヴァージニアは、ルカと共に簡素な食事の最中だった。
「…どうした?」
「魔女様が、あたしを呼んでる…」
「何?」
突然立ち上がると、ヴァージニアは身支度を始める。
「ルカ…あたし、行かなくちゃ…!!」
一方、アンジェラの執務室では、ビアンカが頭を抱えてうずくまる。
「ビアンカ…その顔は…!?」
「えっ……?」
ビアンカの顔は、徐々に白く肌色になり、額の角も溶ける様に消えていった。
かつて彼女が記憶をなくした時の様な“人間化”が再び起きていたのだ。
「やはりな…」
マルコシアスは笑みを洩らす。
それを見たアンジェラは、彼に問い質した。
「おいっ…貴様、これは一体どういう事だ…まさか、魔女の…?」
「違う…」
マルコは、おもむろにビアンカの手を掴む。
「マルコ…?わたしは…」
「おめでとう。ビアンカ、君は自らの“力”で容姿を変化させたんだよ。もっとも少し荒療治だったかも知れないけど…」
「自分の…力で…?」
「君は、本心ではアンジェラは殺したくないと思っていただろう?」
その言葉を聞き、改めてアンジェラの顔を見詰め返す。
「その心が、そして、容姿を変えたいという強い心と交じり合い、君の魔力を更に開花させた…つまり、魔女の力を借りずとも、君は容姿を変えられるんだよ…俺みたいにね♪」
自らの顔や額を触りながら、歓喜と驚嘆の表情のビアンカ。
「マルコ…わたし…」
「君は、この数日急激に成長を遂げた。もしかしたら出来るんじゃないかと思ってね…」
そこへ、撃鉄を引く音。
アンジェラが拳銃を構えて2人に向ける。
「…そうか。では、わたしと貴様が戦う理由は無くなったワケだ…」
「アンジェラ…」
「しかし、今となってはもう遅い…ビアンカ!!」
マルコシアスがビアンカを遮る様に立ちはだかる。
「無駄だ…」
「わかってるよ。貴様等が此処に来たと言う事は…トリニティも敗れたと言う事だろ?彼女は無事なのか?」
「レベッカは、死んではいないはず…」
「そうか…では、まずは此処から消えるんだ…何かと面倒だからな」
マルコシアスとビアンカは顔を見合わせて頷いた。
「そうしよう…まだまだやる事があるしな…」
「ああ、お互いにな…」
皮肉な笑みを洩らすアンジェラ。
その目の前で、マルコとビアンカは再び姿を消した。
「ふふふ…おめでとうビアンカ…」
アンジェラは独り呟くと、思いをぶつける様にテーブルを強く叩いた。
「ビアンカ!?」
容姿を変えて戻ってきた彼女を見て驚く面々。
「その顔は…とうとうやったの?アンジェラお姉様を…」
複雑な笑みを浮かべるミカエラ。
「安心しな。アンジェラは殺してないよ」
「良かった…でも、どうして…?」
「ビアンカは、自らの魔力で容姿を変化させただけだ。だから、いつでも元に戻せる」
それは、つまりビアンカが「人間化」したワケではなく、むしろ「魔族」としての能力が更に深まったと言う事。
その事に気づいているマルコの心境は複雑だった。
「ラブーフ姉妹は無事なの?」
「今、シーラとセバスチャンが団長を追って…」
幕舎の方でまた爆音が聞こえる。
「奴ら…何を?」
幕舎の裏に回って彼等が見たものとは…
逃げ惑うフリークス達に向かい、銃撃と火炎放射で攻撃するガブリエルの“ウォー・ローダー”と、ラボミア正規軍の姿。
そこは、まさに阿鼻叫喚の地獄と化していた。
「うはははははっ…逃げろ逃げろ!化け物ども!!」
狂気の笑みを浮かべ、攻撃を続けるガブリエル。
そこには、ラボミアの御曹司の面影はなかった。
「な…なんて事をしやがる…」
マルコは怒りに燃え、ウォー・ローダーに向かい突っ込んで行く。
「ミカエラ…あれは、アンジェラの息子達なんだろ?」
「そ、そうよ。わたしの甥っ子…だけど」
「ちょっと懲らしめてくるよ…」
言うと、ビアンカは再び蒼い肌に角を持つ姿に“変身”し、背に翼を生やし飛び立った。
「マルコ!!こんな奴ら…あっさり片付けてやろうよ!!」
「同感だな…」
マルコシアス、ビアンカは同時に手の先からプラズマの様な電撃を放射した。
巨大な稲光と爆炎が交錯すると、ウォー・ローダーのコクピットが破裂した。
返す刀で、マルコシアスはラボミア兵士にも攻撃を食らわし、彼等は木っ端微塵に吹っ飛んでいった。
「うぎゃあっ〜!!」
炎の中から、ラファエルがガブリエルを支えながら飛び出して来る。
「しっかりしてくれ…兄さん!どこも怪我はないだろ…」
「ち…畜生!奴ら…奴ら…」
「…とりあえず、ここは下がろう。トリニティ中尉は何処だ…?」
森の木々に隠れながら、兄弟は逃げる。
「余計な事をしてくれたな…ビアンカ」
ゲイルだった。
炎に包まれる幕舎を見上げながら呟く。
近寄るビアンカを一瞥すると、逃げ延びたフリークスを避難させる。
「随分と冷たいね。ゲイル団長。…ラブーフ姉妹が死ねば良かったとでも…」
「ああ、いっそ死んで欲しかったね…」
そこへ、ビアンカの平手打ちが飛ぶ。
「うっ…!?」
頬を押さえて睨むゲイル。
「…どんなつもりで言ってるのか知らないけど、あんた…」
「バカが…!奴ら姉妹がこれぐらいで死ぬものか!…奴らが何故自ら動かず、お前さんやピエトロやヴァージニアを使うのか考えた事はないのか!?」
改めて言われて、ビアンカは気づいた。
以前に、レベッカにも同じ事を言われた。
人の容姿を変え、運命さえ操れる“魔女”たるラブーフ姉妹が、自らの境遇も姿を変える事すらしないのか。
「うっ…何故なの?」
「あたしから、お答えしましょうか?」
聞き慣れた声に振り向くと、そこには巨大なコウモリと、吸血鬼ルカ、そして、ヴァージニアの姿があった。
「ヴァージニア!?…あんた、もう身体は治ったの?」
「当たり前よ♪みんなこのルカのお陰
」
「ルカ卿…どうして此処に?」
マルコシアスが尋ねた。ルカは軽く笑みを浮かべると言った。
「ふふふ…我輩は、ただ此処で何が起きているのか確かめたくなっただけだ。呼ばれたのは魔女の従者たるヴァージニアだけだ…」
「魔女に…?」
「「そうよ。わたし達が呼んだの…」」
そこへ、ラブーフ姉妹が燃える幕舎の中から姿を現した。
「うっ…」
「「ビアンカ…良かったわね♪容姿を変えられる能力をマスターしたそうね…」」
それを聞いて、ヴァージニアは笑顔を向ける。
「えっ!そうなんだ!?見せて見せて♪ビアンカ、あなたの美少女な素顔見てみたいんだけど!?」
「…後でね。そんな事よりどういう事なの…?あんた達はホントに“魔女”なの?」
「「ああ、その事…?まだ疑うの…?まあ、いいわ。わたし達が何故あなた達を使うかって疑問ね…」」
「ビアンカ…この娘達はね。普通の人間なの。魔法は使うけど、魔族じゃなくてよ?」
ヴァージニアが割り込んで来る。
「「さすが、ヴァージニアね♪わかってるじゃない…続けて…」」
「どういう事…?魔族ではない…?」
「つまり、魔法を駆使して様々な奇跡を起こせるけど、それが有効なのは他人に対してのみ。魔力はあっても自分達でそれを試せない。…お分かり?」
「つまり、宝の持ち腐れ…って事か?」
マルコシアスが皮肉めいた表情でヴァージニアに言った。
一瞥すると彼女は驚愕する。
「あらっ?あなた、マルコだったの?何なのその格好は…!?って、それ、あたしの服じゃな〜い?」
「悪かったな…んな事は今はどうでもいいだろ!!つまり、アレか?ラブーフ姉妹は、ビアンカやヴァージニア等の力を借りないと魔力の使い道がないってこったろ?」
「「そう。わたし達は復讐の為に魔法を学び、誘惑された人間や使い魔を駆使してそれを実践する事にしたの…♪」」
さも楽しげに、屈託もなく答えるラブーフ姉妹達だった。
「復讐だって…?」
「「そうよ。復讐するの…あなた達を使ってね…」」
「使い魔けっこう!あたしは喜んで力をお貸ししますわ♪魔女様!!」
ヴァージニアは、わざとらしく臣下の礼を取り、かしずいて見せた。
「誰に対して復讐しようって言うの…?」
「「ビアンカ…案外鈍いのね♪
…決まってるでしょ?わたし達の親や家族を殺し、わたし達をこんな姿にしたガルシア一族によ…」」
「なっ…!?」
一方、林の中でボロ雑巾の様に朽ち果てたレベッカの前に光が射す。
「う…うん…」
〈…レベッカ…起きろ。お前はよく働いた…〉
「うっ…!?…その声は…まさか…?」
おもむろに上体を起き上がらせる彼女の前に、その光体は人の形を有してゆく。
「あ…あ…あなたが、天使トリニータなの…?」
《続く》
初掲載2010-05-08
ビアンカは魔族としての能力を覚醒し、魔女ラブーフ姉妹は真相を語る。
そして、レベッカの前に姿を現した“天使トリニータ”の目的とは?
謎が謎を呼び、核心に近づく。
いよいよクライマックスに向け、役者は揃った!!
次回をお楽しみに
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