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最早手の届く範囲でしかはっきりとした輪郭を捉えることは出来ない。それも指先は既に蕩けているから私の理解できる世界はせいぜい半径50cmてなもんだ、腕の中には何もない。誰もいない。一人分の皮膚のはりつく音が八畳の部屋に響くだけだよ。

戦争は終わった。東京は灰になった。彼女は骨になった。札束は焼けた。俺はケロイドになった。ただそれだけのことだ。なにも変わらずにただ地面を見下ろす。俺の足元だけ何故か雨が降っている。ぽたぽた。ああ。ただそれだけのことだ。

夜の闇と流星群が僕らを包む。君の涙は流れ星に似ている。君を泣かせてしまえたら、僕の願いは叶うのかい?

「どっかの誰かが言ってた。矛盾してる事なんて生きてる間はいくらでもあるってな」
「そんなこと誰が言ったんですか」
「誰でもいいんだ。別に誰も言ってなくたっていいんだよ」
「止めて下さいそういうの吐き気がする」
「聞き流せよ。俺もお前の現実主義っていうのは解んねえからさ」

太陽を直視すると眼が潰れると云う。小学生の時にそう学んだにも関わらず私は彼を真っ直ぐに見つめてしまったのだ。私の眼は既に何者も映そうとはしない。彼の大きさに圧倒され私は潰れてしまった。彼の輝かしさに焼かれ私は濃い影となってしまった。

十年前別れた彼女に手紙を出した。三日後携帯に彼女から電話。「今度30円返してよ」久しぶりに聞いた彼女の声は十年前とちっとも変わらないね。呆れたふりしてももう離さないよ。50円切手は僕と彼女を繋ぎ止める。

便所から響く水音で眼が覚めた。溜め息をしまい込んで光の漏れる便所戸を開くと最近見ることのなかった同居人の背中。同時に3時間前食べた夕飯が原型留めず便所の底に溜まっていた。「髪に付いてる」そう言った俺の声は寝起きで掠れている。彼の長い髪は自らの胃液でボロボロだった。

おお大正ロマン。ワタシを明治に連れてって。

一人昭和の香りが残るこの部屋で白熱電球を灯しながら眼を閉じる。部屋の四隅には光が届いていなくて、闇も光もいっしょくたの夜。呟く言葉に返事をするのはあやしつけるような優しい雨音で瞼の裏を眺めて意識がほどけるのを待つ。いつまでも独りの夜。

髪を切るほどの決断も出来ない僕に一体何を決断しろって言うんだ

私の夢?私の夢はね、ウイルスになって、あなたに感染して、ゆっくり、あなたを内側から犯すことなのよ。抗体はあなたの愛。私を愛してくれれば開放してあげられるけれど、あなた、私のこと愛せる?ねえ、愛せる?愛してよ。愛してくれなきゃ、殺す。

彼女は誰もが認める絶世の美女だった。町行く人は皆彼女に意識を奪われたが不思議なことに彼女の容姿を褒めるものは過去に一人も表れなかった。彼女を愛す る神が彼女を束縛していたからだ。只今神は腹を下しトイレに籠っている。彼女に近づく下品な眼をした輩には気づきもせずに。

祖父は歩くことが大好きだった。そして骨粗しょう症になった。
祖母はとても頭が良かった。そして痴呆症になった。
父は甘いものが大好きだった。そして糖尿病になった。
母はお喋りが大好きだった。そして舌癌になった。
俺は一生健康だった。
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