君だけを想ってるA
「はぁっ、はぁっ…」
俺はいま、息を切らしながら、ボロボロになった服のまま身を屈め、道の路地裏に潜んでいる。
そぉっと、塀の角から少しだけ顔を出し、キョロキョロと辺りを見回すが周りに人の気配はねぇ。
やっと、まいたか…。
膝に手を当てて体重をかけ、はぁっ、と人知れず深くため息をついた。
放課後から、ずっとシャンプー、うっちゃん、小太刀の3人にチョコを食えと迫られ続け、何とか3人をまいたが、気付けばもう辺りはすっかり真っ暗になっちまってた。
それにしても、今日の3人娘の追いかける執念深さたるや、恐ろしかった。
女ってのは、怖ぇーな…。
そんな事を思いながら、すっかり暗くなった空を見上げた。
もう、いったい何時なんだろうか。辺りの家からは、旨そうな夕飯のカレーの匂いが漂ってくる。
…あかねのヤツ、もう流石にこんな時間じゃあ公園で待ってねぇよな…。
痛む身体を引きずりながら、俺はあかねと待ち合わせた公園じゃなく、天道家へと向かった。
とにかく、早くあかねに会って待たせちまった事、謝んねーと。
やっと心が通じて、両思いってやつになれたのに、またあかねを怒らせちまう。
「ただいまー…」
ガラッと玄関の扉を開けてみるが、あかねからの返事がねぇ。
…ってか、あかねの靴が玄関にねぇ。
まさか…。
サアッ、と顔から一気に血の気が引く。
俺は勢いよく靴を脱ぎ、居間にいた親父に問いただした。
「オヤジ、あかねはっ…?!」
オヤジはキョトンとした顔で、テレビを観てた姿勢のまま首を動かし、顔だけ俺を見上げる。
「なんじゃ乱馬、帰りは一緒じゃなかったのか?あかねくんはまだ帰っとらん…て、おいっ、乱馬?!」
オヤジの返事も聞かねぇまま、俺は再び玄関を勢いよく飛び出した。
えっ、だって、まさか……もうこんな時間なのに、あかねのヤツまだ公園にいんのか?!
夜空の冷たい風をきりながら、勢いよく屋根を飛び越え、待ち合わせた公園へと急ぐ。
あかねがまだ帰ってないという現実に、三人娘に追いかけられた疲れなんて、一気にぶっ飛んじまった。
「あかねっ…!」
急いで着いた公園は、もう辺りが真っ暗でかろうじて薄暗い外灯が砂場の近くを照らしてる。
そのすぐ側にある赤い小さなブランコに、見慣れた制服姿がみえた。
急いで駆け寄り、吐いた言葉が。
「おめっ、なんでまだいんだよ!」
その言葉に、ブランコに乗り俯いていたあかねがバッと顔をあげる。
どうしてそんな事を言うの?という顔をして。
あぁ、しまったと思った。
本当は、約束の時間に来れなかった事を、こんなに待たせちまった事を先に謝るべきだった。
あかねがどれだけこの寒い公園で、たった一人で…どんな気持ちでずっといたかなんて思いもせずに。
でも、天邪鬼な俺は、すぐには素直に謝れなかった。
「ほら、とにかく帰る…」
俺がそう言って、引っ張った手をパシッとあかねが払いのけた。
「なっ…?」
俯きながら、あかねが口を開く。
「…どうして、遅くなったの?
忘れちゃったの?」
「ばっ、ちげーよ!俺は放課後すぐに来るつもりだったんだよ!でも、またシャンプー達に追いかけられて逃げてたから仕方なくっ…」
その言葉に、あかねがピクッと動いた。
「逃げて…?シャンプー達に、あんたは何か言わなかったの?」
「は?言うって、何を…」
その言葉に、あかねは持っていたカバンをぎゅうっと握りしめ、顔をあげてキッと俺を睨みつけた。
「…乱馬のバカッ!!」
あかねはその言葉と共に、バシッと俺に水色の紙袋を投げつけ、暗い夜道を1人走り出した。
「なっ、んだよ!?おいっ!」
言われた意味も分からず、走り去るあかねを見つめながら、俺はただそこに1人呆然と立ち尽くしていた。
*A tale continues*