2020-4-8 11:31
シアワセノハナ
花を摘む。
名前も知らない道端の花を。
幸せの花。
そう言いながら彼女は差し出す。
誰かが幸せな最期を迎えた時に
ひとつだけ咲く花。
雪にも負けない花には、
そんな言い伝えがあるらしい。
「本当かよ。」
『今考えた。』
「何だそれ。」
俺は幸せの形を抱きしめた。
そして、
一体どれくらいの時が失われたのだろうか。
気がつけば俺の隣には誰もいなくなっていた。
雪が降り注いでいた。
世界が動き始めていた。
頬が濡れていた。
涙も流れていないのに。
右手には花があった。
幸せの花が。
「あ」
次の瞬間。
花がなくなった。
消えた。
世界のどこからも。
世界が全てをなかったことにした。
俺の中で、
大切なものがひとつ失われた。
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