花を摘む。











名前も知らない道端の花を。











幸せの花。











そう言いながら彼女は差し出す。











誰かが幸せな最期を迎えた時に
ひとつだけ咲く花。











雪にも負けない花には、
そんな言い伝えがあるらしい。











「本当かよ。」











『今考えた。』











「何だそれ。」












俺は幸せの形を抱きしめた。














そして、
一体どれくらいの時が失われたのだろうか。













気がつけば俺の隣には誰もいなくなっていた。













雪が降り注いでいた。













世界が動き始めていた。













頬が濡れていた。













涙も流れていないのに。













右手には花があった。













幸せの花が。
















「あ」
















次の瞬間。
















花がなくなった。

















消えた。
















世界のどこからも。


















世界が全てをなかったことにした。




















俺の中で、
大切なものがひとつ失われた。