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五線譜を駆けるポラリス 昨日読み終えた図書館のご本です。 久しぶりに敬愛する作家なしき氏のご本を拝読いたしました。 正直申し上げれば、前半は凄まじい失望感に襲われました。 「嗚呼、この方も年を取ったか。このようなことをお書きになる方ではなかった」 そんな想いで、なかなか読み進められずにおりました。 あの方が俗っぽい批評をなさるのを読みたくはなかったのです。 今の社会のこういうところが悪い、単純無責任にそういうことを言う方ではなかったので。 なしき氏が独特な眼差しで見つめる世界、 世界の理不尽を批判するのではなく、 達観し諦念し、呆れながらも「仕方ないなあ」と言って受け入れる姿勢。 過去の小説やエッセイで描かれる、その姿勢がとても好きだったので。 けれど後半になるにつれて、少しずつ、私の敬する"なしき氏らしさ"が現れてきて やっぱりこの方のご本が好きだわ、と思うことができました。 研ぎ澄まされたアンテナ(アンテナ、という言葉をこの方はよく使われます)でもって 繊細に世界の事象を眺め、取り込んでいく。 ひとつのことを深く考え抜くけれど、決してひとつの場所に留まることはない。 根なし草のような、飄々とした佇まい。 世界中を旅して、世界を知っていながら、小さな日本での生活をきちんと生きている。 私の中に在る、ひとには理解されない部分を不思議と分かち合えるようなそんな気持になるのです。 共感というよりは、共鳴。 そして、なしき氏のように考え、世界を見て、生きて見たいという憧憬。 私のお手本のようなこの方の小説やエッセイが大好きです。 あとがきにてお書きになっておられましたが、 このエッセイは月刊雑誌連載されていたもので、 そのため連載開始当初は当時の社会の雰囲気のために書き方が憂いを帯びていたとのこと。 連載が続くと、だんだんと書き方も変わって来た、とご自分で仰っておられました。 なるほど、納得です。 だって作風が驚くほど違ったんですもの。 素敵なご本でした* * ← → bookmark |