-monochrome zero-
 ワンライ「エアコン」
 2016/7/9 22:23

前日の夜に頼まれていた鵠さんからの仕事が終わり、何故かその後葛西さんから呼びつけられ、それが全て終わったのが午前11時頃。
まだ7月に入ったばかりなのに、ジリジリと照り付ける陽射しは夏のそれと変わらないようで、俺の体から涼しさを奪っていく。
んー、さっきコンビニでアイス買ったんだけど、家まで溶けないか心配だなー。

「ただいまー。」
「おかえりー」

家に着いたら正午を少し回ったくらいだった。
昨日の夜と何も変わらない部屋。
ただ、返ってきたあいつの声の聞こえ方が少しおかしかった。

とりあえずアイスは冷凍庫に入れてから、買ってきたものを渡すために声がした方へ向かう。

違和感の原因はすぐに分かった。
エアコンで冷えた部屋の中、時任がフローリングの上に大の字で寝転がってゲームをしていた。そりゃ寝転がってたら聞こえ方変わるよね。頭こっちに向いてるし。

「……どしたの?」
袋から頼まれていた漫画雑誌を取り出しながら聞けば、寝転がったままこちらを見る。
どっかのホラー映画でこんなシーンありそう。

「久保ちゃん知ってた?床の上って冷たくてきもちーんだぜ?」
「まぁそこ、エアコン当たるからね。ほい、頼まれてたやつ」

雑誌を手渡すと片手で受け取り、お礼もそこそこにゲーム機を横に置いてパラパラと捲り出した。どうやら起き上がる気はないらしい。
その様子が何故か可笑しくて、ついじっと眺めてしまう。

「そんなに見られてたら集中して読めねぇじゃん、何だよ?」
あら、バレてたみたい。
「別にー。何でもないよ。……あ、アイス買ってきたよ」
「こないだの変な味のヤツじゃねーだろうな……」
「あれもう売ってなかったんだよねぇ、美味しかったのに」

とりあえずソファに座ることにした。寝転がる時任はうっかりしたら蹴飛ばしそうな位置にいる。
何となくテレビを点ける気にもなれず、時任を眺めたり背もたれに背中を預けてぼんやりと天井を見てみたり。
そんな時間がしばらく過ぎ、仰向けになっていた時任がごろんと寝返りをうつ。俺に背を向けるようにしていたが、またすぐに俺の方を向く。その顔は少し不満そうだった。

「……」
「何かあった?」
「……床、冷たくねぇ……」
「そりゃあ同じとこに寝てたら温まるよね」

不満そうな表情のまま、むくりと起き上がり体を伸ばす。さっきまでの快適そうな顔はどこにいったのやら。

「知ってたなら教えろよ……あ、そういやアイス買ってきたって言ってたよな。久保ちゃんも食うだろ?」
また表情が変わった。見てて飽きないなぁ。

「うん。まぁ、買ってきたのは俺なんだけどね」
冷蔵庫のドアが開く音を聞きながら答える。
アイスの袋を開けながら戻ってきてそれを手渡される。
溶けてないか心配だったけど、気にするほどでもなかったみたいで一安心。
時任はソファを背もたれにして座り、アイスを一口かじると満足そうに言った。

「やっぱエアコンの効いた部屋で食うアイスって最高だなー!」
「床に寝転がるのはもう良いの?」
「ずっと冷たい訳じゃないしなー」

アイス好きだし、と言って笑う。
夏の陽射しのように明るい笑み。

外は夏が近付き、そして部屋の中でも夏が始まる。
まだまだ、暑さはこれから。

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