公団を通る歩道は古ぼけた石畳で舗装されている。
1ブロックごとに色が違うだけの単純なモザイク模様の施された歩道。その模様すら均質でなく、所々まだらに歪んでいる。

今日は黒い石を踏まない、例えばある日そう決めていた。
不揃いなモザイク模様は場所によって片寄り、ぼくはたびたび小さく跳ねてその模様を避けた。
1ブロックずつきちんと歩き、不要な模様は踏んでならないとルールを決めて。
着地した先が水たまりでも構わなかった。靴下まで濡れてしまうことより、ルールがなにより優先された。
黒い模様は地雷のようだった。
そのモザイクを踏んでしまえばぼくの身体は木っ端みじんになる、そう思っていた。あるいは落とし穴で、足を掛ければ地の底に飲み込まれる、とも。

何故そう思い込んだのかわからない。
ただ、ルールは絶対だった。
ぼくはたびたび木っ端みじんになったり、地の底に飲み込まれた。
でも、“死んでしまう”となぜか充実した気持ちになったことを覚えている。


ぼくが子供だったころ、いつも不思議だった。
夏の大きな雲、陽が暮れるころ伸びる影、いくら逃げても遠ざからない太陽…
不思議なことばかりだった。


いつしか不思議なことはなくなってしまった
不思議だ、とさえ思わない自分がすこし不思議だけれど