地獄を忘れた別世界線




うららかな昼下がり。決して広くはないアパートの一室は、とても賑やかだ。部屋の主はきゃあきゃあ騒ぐ声を気にするでもなく、むしろ微笑ましそうに笑みながら、窓際に席を取り、茶柱の立った茶を啜る。

「ずるいです! そんな役であがるなんて!」
「賭け事なんてずるしてなんぼのモンだ。っつーかずるじゃないからな、カスだって立派な役だ。ねーちゃんを敬え」
「あなたを姉だとおもったことは一度もないです」
「まあまあ、大人げない姉上には加減してやろう、今。今は利口だからなあ」
白い姉妹が花札を手に勝負、いや、自称賭けをしているらしい様子を、鶯は遠巻きになだめる。賞品は知らない。ぶすくれていた今は、鶯の言葉にぱっと顔を輝かせる。
「ぼくの勝ちですね!」
「はあ!?」
どうやら賞品は自分に関することだったらしいと、鶯は飛びついてきた今を抱きとめた。
「鶯ねえさまはぼくをほめてくれました」
「いや、勝負は俺が勝った」
「ふふん」
可愛げない。国永は眉根を寄せたが、確かに大人げもなにもないとため息をつく。が、ほとんど同時に、襖を引く勢いで玄関のドアが開かれ、ビニール袋に詰め込まれた飲み物を散らして身を乗り出してきたのは。
「私もその勝負、参加させていただきたく」
「おいおい、いまきみが放り投げたのほとんどビールとコーラだぞ! これじゃ事故だ!」
「おかえり一期、重かったろう」
「おかえりなさい! 勝負はもうつきましたよ! ざんねんでしたね!」
ぎゅっと鶯に抱きついたままの今は、鶯の頬にキスをした。ぴきりと額に青筋を浮かばせたのは一期。あーあ、とげんなりしながら飲み物やつまみを拾い集めるのは国永。
「細かいことは気にするな、風呂で乾杯しよう」
「あ、貴女様と一緒にお風呂だなんて……」
「はれんちです。鶯ねえさま、ぼくとジュースをのみましょう」
「もう突っ込まないぞ俺は」

一番のずるをして勝ったらしい今とジュースで乾杯した鶯は、手を泡だらけにした国永に、大人しくなったビールをねだった。