何でもします
貴女の為ならば
さぁ、お申し付け下さいませ
お姫様
【君が望むなら】
「……雨かぁ…」
窓の外を見た彼女は、残念そうに呟いた。
「なぁに?ひーたん。そーんなに俺と動物園行きたかった?」
そんな声をかけても、素直に“うん”と言ってくれるとは思っていない。
「……はいはい、動物園には行きたかったですよ。」
「んなに“動物園には”を強調しなくたっていいじゃん。」
知っていても、わかっていても、ほんの少しだけは傷つく。…まぁ、そんなのは後から取り返してやるんだけども。
「……はぁ、見たかったなぁ…」
窓から目を離し、ソファーに座り込んだ彼女の隣に腰かけて、顔を覗き込んだ。
「?」
「…ワニ」
「そうそう見たかったよね〜ワニv…ってワニ?!」
想像しないような名前が出てきたことに少しだけ驚いた。よりにもよって、アザラシでも、キリンでも、レッサーパンダでも、パンダでも、ウサギでもなく…
ワニ。
爬虫類?
「え?見たく無いですか?」
然も当然のことのように、ものすごい勢いで振り向いた彼女の目は甘味を前にした時のように輝いている
……冗談ではなさそうだ。
「ワニを?」
「ええ。」
「クロコダイル?」
「はい。」
「………いや、その…」
さすがにちょっと口ごもってしまいました。
「………。」← しょぼん
彼女がむぅ、と黙り込んでしまえばコレはかなり危ない。頑固だから一度機嫌を損ねると、取り戻すのにはけっこう時間がかかるのだ。
頭の中で必死に考える。
(でもそんな時間すら愛しい)
ワニ、ワニ、……ワニらしきものがいるところ――――
「……うーん…あ!よし!ひーたん、出かけよ!」
そして、頭に浮かんだ場所。
「ドコへ?」
「トイ●らス!…あそこならきっとワニもいるよ!……ね?」
あのこどもの国ならば、たくさんの動物のぬいぐるみが並んでいたはずだと思われた。
あまり多くの人は知らないが、彼女はぬいぐるみが好きだ。彼女の通勤鞄にはマスコットがついているわけではないし、使っている道具がキャラものなわけでもない。
一度どうしてマスコットなどをつけないのか?と聞いたことがあったが
“会社の人にからかわれるのがイヤです。”
だって私なんかが持ってても可愛くないでしょ?
と言われたことがある。
――彼女は案外、自分のことがわかっていない。
これは、外見的にも内面的にも。
俺が今いるこの彼女の家(正確には居候扱いらしいが)にはぬいぐるみが溢れている。しかし、ワニのぬいぐるみは無いように思われた。
それは何故か
「……わにお君」
彼女は“買えない”
「何それ?」
自ら、ワニのぬいぐるみを買うなんてことができるハズがない。
「小さい時から考えていた、もしもうちにワニが来た時の名前です」
小さい頃から、欲しかったものをずっと我慢し続けて生きてきた。
“もしも”
そう、思いながら
我慢しなければ生きられなかった。
俺は、そんな彼女の不器用さを知っている。
「……そか。よし!じゃ、わにお君を探しにいきますか?お姫様?」
俺しか知らない、君も俺が知らない、君も
「…はい。」
全てがいとおしいから
さぁ、お手をどうぞ
俺だけのお姫様。
‡‡‡‡‡‡
おはようございます。御鐘です。
朝からひーたん&ひーたんです。今回は彼の方(響)の視点でのヒバリちゃん。彼もヘタレでテキトーですがヒバリちゃんのことは考えています。
では、最後までお読みいただきありがとうございました。
2008/10/03 御鐘